自動車生産においてASEAN(東南アジア諸国連合)の盟主といえるタイ。しかし、人件費の高騰や若年労働層の不足などの問題が迫りつつある。危機感を持った同国は、これまでの生産一辺倒の構造を見直し、研究開発力やイノベーション力の強化に動き出した。変革を取り仕切る、タイ 科学技術省大臣(Minister of Science and Technology)のPichet Durongkaveroj(ピチェート・ドゥロンカヴェロージ)氏に思いを聞いた。

写真:Kittisak Thianghathaitham
写真:Kittisak Thianghathaitham

 私が政府の仕事に携わり始めてから、約12カ月が経ちました。タイ政府、すなわち私の現在の最大の目標は、タイのイノベーション創出力を高めることです。

 タイになぜイノベーションの創出力が求められるのか。その理由は大きく3つあります。第1に、今後10~15年かけて、タイの中間層の所得の水準を上げていきたいと考えていること。第2に、タイが今後、ある程度裕福になった際に、高所得者層と低所得者層の格差をなくしていく、つまり二極化しないようにする必要があることです。イノベーションを用いてこの格差をなくしていきたい。第3に、日本も同様の問題を抱えていると聞いていますが、タイの人口構成が高齢化してくることです。そう遠くない将来に、人口の1/3が高齢者になります。

 すなわち、国民の生産性向上、高齢化社会に向けての対応、そして、いずれ社会を担う子供たちの能力を高めるために、タイでは今後、研究開発力、とりわけイノベーション創出力の向上が欠かせません。タイでどんどんイノベーションを生み出せれば、直接的・間接的なメリットとして、産業が潤います。そうなると、社会的にも潤い、その結果、国民に還元できるようになるわけです。