繊維機械メーカーの3代目社長だった富永眞央氏。繊維産業衰退の影響もあり、9年前にその会社を畳んだ。1年後、TOMI-TEX(本社福井県鯖江市)を立ち上げて社長に就任。30年前に一度取り組んだ立体織物を造る機械の開発に再挑戦している。繊維を立体的に織ることで、炭素繊維強化樹脂(CFRP)などの強度を高めることが可能になる。

写真:栗原克己
写真:栗原克己

TOMI-TEXは8年前にできた会社です。それ以前は繊維機械メーカーで働いていました。ストラップや面ファスナー、畳のへり、シートベルトといった細いテープやリボンなどを造る機械の製造・販売会社です。この会社、実は祖父が約90年前に創業し、私は30歳を過ぎた頃に3代目として社長になりました。

 当時、国内の繊維市場では中国製などの台頭で低価格化が進み、日本の織物業者が太刀打ちできない状況でした。織物業者の数も少なくなり、設備投資も減少。我々のような繊維機械メーカーも商売が成り立たなくなってきたのです。

 繊維機械以外にも自動車業界向けなどの機械も手掛けました。ただ、自社で設計した独創的な機械ではなく、単に下請けで造ることが多い機械です。そうすると、やはり価格勝負になってしまいます。私が社長になってから4~5年後、廃業することにしたのです。

もう一度繊維機械を

 半年ぐらい、「今度は何をしようか」と考える時期が続きました。繊維機械とは全く関係がない業種の会社に就職することも考えたぐらいです。そんな中、福井県でいくつかの会社を経営されている方から電話がありました。

 私が繊維機械メーカーを畳んだことを新聞で知ったらしく、お会いしたところ「会社を作ってあげるから、やったらどうだ」と軽い感じで言われたんです。突然の話でびっくりしました。

 この方は何社も経営されている事業家。ものづくりに対しては関心の高い方なのですが、今まで繊維業界には関係してこなかったので、ある意味新鮮で興味があったのかもしれません。「せっかく長い間繊維機械を造ってきたのだから、その仕事を続けた方がいい」と、資本を提供していただきました。こうして立ち上がったのがTOMI-TEXです。