宇宙事業に乗り出したキヤノン電子。実は、同事業への参入は酒巻氏が長年温めてきた構想が結実したものだ。同社が制御システムなどを手掛けた小型ロケット「SS-520 4号機」では、残念ながら人工衛星の投入は失敗に終わった。しかし、酒巻氏の意気込みはとどまるどころか、さらに勢いを増している。

(写真:栗原克己)
(写真:栗原克己)

 宇宙事業に着手したきっかけは、米国の地政学者の著書を読んだことです*1。世界を制覇するのは、かつては陸上を征した国だったが、それが海上を征した国、空を征した国へと移ってきて、最終的には上空500~600kmを征したものが世界を制覇するという主張でした。それを読んで、「チャンスが来た」と直感しました。

*1 『アストロポリティーク、宇宙時代の古典地政学』(エヴェレット・カール・ドールマン、2001年)のこと。

 もともと持っていた思いとも合致しましたし。というのも、実はキヤノン電子に来る前、キヤノンにいた時から宇宙事業をやりたいと思っていたんです。当時からある程度の事業イメージもありました。それが人工衛星とリモートセンシングです。キヤノンではインクジェットからコンピューターまで、とにかくいろんな製品の開発をやりましたが、宇宙への思いは密かにずっと持っていました。

 キヤノン電子に移って好きなことができるかと思ったんですが、社長に就任した1999年当時の経営環境では、宇宙事業なんてとても許される状況じゃなかった。借入金が300億円弱ぐらい、不良資産が当時100億円弱くらいあって、まずはそれをなんとかしなくちゃならない。そもそも、キヤノン電子が手掛ける量産品と宇宙事業の一品ものでは造り方が違うし、それに長けた人材もいないですし、すぐにはどうにもならなかった。