人工知能(AI)を製造業に生かそうとする機運が急速に強まってきた。そんな中、AIの研究・活用に関する知の集積地として創設されたのが産業技術総合研究所(産総研)の人工知能研究センターだ。そのトップを務める米Microsoft社出身の辻井潤一氏は、「米国が先導していた時代は終わろうとしている。これからは日本にチャンスがある」と息巻く。

写真:栗原克己
写真:栗原克己

 産総研の人工知能研究センターは、2015年5月に発足しました。つい最近まで、「日本の情報産業はあまりうまくいっていないので、今さら投資してどうするのか」という雰囲気がありました。ところが、ふと気付くと、AIがさまざまな分野に入り込み、産業全体の基盤技術になろうとしています。日本の競争力を生み出す根幹の部分にAIが不可欠であると、多くの人が考えるようになりました。

 実際、クルマや健康機器などあらゆるモノの知能化が進んでいます。製造業では、従来は品質やコストを高めることが重視されていましたが、今後はどれだけ知能を高められるかという部分で勝負が決まるでしょう。

 そうなると、製造業と情報産業の関係も変わってきます。従来は、製造業が情報技術(IT)を使って合理化を進めるという構図でした。今後は、情報産業が製造業のセンシング技術や制御技術を使って新しい市場や事業を創出するという動きが増えてきます。つまり、製造業の技術はコモディティーとなり、AIに代表される最先端のITによって価値を生み出すという逆転現象が起きようとしているのです。

 従って、日本の産業を発展させるには、競争力の源泉となるAIを押さえておかなければなりません。人工知能研究センターを設立した背景には、このような問題意識があります。