日立製作所は、電力損失が非常に小さい新しいパワーモジュール「DuSH」を開発した。最大の特徴は、トランジスタにSi IGBTを、ダイオードにSiCショットキー・バリア・ダイオード(SBD)を利用した、いわゆる「ハイブリッド型」のモジュールながら、SiC MOSFETと同MOSFETのボディーダイオードを利用した「フルSiC」モジュールに迫る低い電力損失を実現したこと。「デュアルサイドゲート」と呼ぶ新しいゲート構造を備えた次世代のIGBTを採用したことで達成できた。
 SiC SBDは製品化されてから15年以上が経過し、以前よりもずいぶんと安価になったものの、SiC MOSFETはまだ高価である。今回開発したパワーモジュールをインバーターなどの電力変換器に利用すれば、コストを抑えながら、電力損失の50%削減が可能になる。
 本稿では、デュアルサイドゲート構造のIGBTや同IGBTを搭載したDuSHモジュール、さらにDuSHモジュールに採用予定の新しい実装技術について、開発を主導した森氏が2回にわたって解説する。今回は、日立グループのIGBTの開発を振り返りつつ、デュアルサイドゲート構造を備えたIGBTやDuSHモジュールについて説明してもらう。 (本誌)

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 IGBTやパワーMOSFETといったパワーデバイスで発生する電力損失を低減する目的は、端的に言えば、インバーターを広く普及させ、環境負荷を低減した「低炭素社会」を実現するためである。これは世界的な潮流になっている。

 2015年12月に採択された「COP21」の「パリ協定」では、200近くの国と地域が参加し、世界共通の長期目標として、平均気温上昇を産業革命前から1.5℃以下に抑える努力をすることに合意した1)。国連は、2015年に採択した「SDGs(持続可能な開発目標)」で、2030年までに再生可能エネルギーの割合を大幅に増やし、「クリーンエネルギー技術」への投資を促進することを目標に掲げている2)

 日米欧の主要8カ国(G8)は2008年に、「2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を少なくとも50%削減する」という目標を共有した3)。日本も、2050年までに温室効果ガスの80%削減を目指すことを2016年に閣議で決定した4)

 「CO2半減」を達成するには、現在よりもさらに多くのパワーデバイスが必要になる。その市場は飛躍的に成長するだろう。筆者が2008年に予測した際、2050年に「CO2半減」を実現したあかつきには、パワーデバイス市場は当時の約10倍に相当する約10兆円の規模に達するとみていた5)。その後、年を追うごとに世界中で環境意識が高まり、2035年のパワーデバイス市場は10倍以上の13兆円にも達するという予測が2016年に出てきている6)