人間の脳の特性を活用することで、効果的な情報提示手法を開発する動きが出てきた。目の錯覚を利用して、疑似的な動画を低コストで表示できるシステム「変幻灯」を日本電信電話(NTT)が開発した。脳の情報処理の特性を理解し活用することで、全く新しい情報提示手法の開発に結び付けた取り組みを、同社 NTTコミュニケーション科学基礎研究所の西田氏が解説する。(本誌)

 人間の錯覚を利用した新しい光投影技術「変幻灯」を開発した。静止している物に光を投影することで、さも動いているかのように見せる技術である。実現手法は非常に簡単だが、その背景には人間の視覚系の仕組みに対する理解があり、それをうまく利用している。

 我々の狙いは、人間の脳の情報処理の特性を理解することで、より効果的な情報提示の手法を開発することである。今回の技術はその一例で、疑似的な動画を低コストで表示できるシステムにつながる。脳の特性を活用すれば、この他にもさまざまな情報表示方法が可能になると考えている。

 開発した技術を使うと、例えば、紙に印刷した画像があたかも動いているような効果を与えられる。難しい顔をしているバッハの肖像画に光を投影すると、にっこりと笑わせたり、元に戻したりできる(図1)。同様にモナリザの顔をしかめさせたり、笑顔に変えたり、目をぱちぱちさせたりできる。いずれの肖像画も単なる印刷物だが、そこに動き成分を持つ光を投影するだけで、まるで生きているかのように見せることができる。表情の変化だけでなく、水面の光の屈折による揺らめきや、風によるたなびきなど、さまざまな動きを静止画に与えられる。

図1 肖像画のバッハを笑わせる
図1 肖像画のバッハを笑わせる
止まっているはずの肖像画が、あたかも動いているかのように見える。(写真:NTT)
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 なお、与えられる動きの量には限界があり、あまり大きく動かすことはできない。ただ、一定の範囲内であれば、非常にきれいに動かすことができる。