セイコーエプソンは、従来よりも表示性能を高め、小型・軽量化したARグラス「BT-300」を開発した。輝度は2000cd/m2、コントラスト比は10万対1以上、精細度は3415ppiと高い。重さも20%ほど軽くなった。この実現に貢献したのが、独自開発の有機ELパネルである。同パネルを中心に、BT-300に採用した技術について開発者に解説してもらう。(本誌)

 我々は、AR(Augmented Reality)向けヘッドマウントディスプレー(HMD)「BT-300」を開発した。2016年11月に発売する予定である。AR向けHMD「MOVERIOシリーズ」の第3世代品に相当する。最大の特徴は、画質が大幅に向上したことである。画素数は1280×720と多く、精細度は3415ppi、パネル輝度は2000cd/m2と高い。コントラスト比は最小10万対1と非常に高い(表1)。従来機種「BT-200」では、画素数は960×540でコントラスト比は230対1だった。輝度に関しては公表していない。

表1 「BT-300」と「BT-200」の比較
表1 「BT-300」と「BT-200」の比較
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 BT-300は、従来機種より小さくて軽いことも特徴である。重さは69gで、88gのBT-200に比べて20%ほど軽くできた。

 画素数が多く、コントラスト比が高いほど、外界の風景に重ねて見せる映像がよりリアルになる。輝度が高いほど、屋外の明るい場所でも見やすい。小さくて軽いほど、着用時の負担を軽減できる。

 こうした高輝度・高コントラスト、小型・軽量という特徴は、HMDの表示素子に0.43型の有機ELパネルを採用したことで実現した。これまでのMOVERIOシリーズでは、液晶パネルを利用していた。

 2011年に発売したMOVERIOシリーズの初号機「BT-100」の企画当初から、有機ELパネルの適用を検討していた。しかし、幾つかの技術課題があり、第2世代品まで液晶パネルを利用してきた。今回、こうした課題の解決にめどをつけ、採用に踏み切った。

 本稿では、我々が開発・製造している有機ELパネルの詳細について解説し、BT-300の特徴を実現できた理由などを説明する。