撮像センサー(イメージセンサー)は、人が見るための画像データよりも機械が解析するためのデータのために使われつつある。紹介する撮像技術は、これからのマシンビジョンに向けたものだ。自動運転車、ドローン、産業ロボットなどで高速に変化する対象を既存の撮像センサーとは異なる手法で認識する。生物の神経細胞にヒントを得て、10万フレーム/秒で140dBのダイナミックレンジでの撮像が可能という。実用化に向けて開発中のフランスChronocam社が寄稿した。 (本誌)

(写真:Getty Images)
(写真:Getty Images)
[画像のクリックで拡大表示]

 我々フランスChronocam社注1)の開発チームは、従来とは異なる原理を使って、幅広い分野のマシンビジョンに応用できる撮像センサーを開発した(図1)。わずかな演算能力でも10万フレーム/秒に相当する高速の撮像が可能だ。

注1) Chronocam社は2014年に創立したベンチャー企業である。科学者、企業家、ベンチャーキャピタルなど国際的なプロ集団で形成している。神経細胞に基づく破壊的技術の実用化に向けた開発を目標にする。神経細胞に基づく技術は、画像情報の撮像と処理する際にイベント駆動型の視神経や脳神経の原理にヒントを得ている。バイオ、医療、科学、産業、自動車などの幅広い分野が対象である。技術は、米California Instituteof TechnologyのCarver Andress Mead氏が1990年代初めに切り開いた神経細胞工学における25年の研究に基づく。スイスETH Zürich、オーストリアAIT Austrian Institute of Technology、米Johns Hopkins University、スペインCSIC(Spanish National Research Council)、フランスUniversity Pierreet Marie Curieを含むさまざまな研究機関でもさらに研究された。Chronocam社の科学者の共同創立者のほとんどは、これらの研究機関のメンバーでもある。ラウンドAの出資を募集中である。

†マシンビジョン=自動車や製造ラインなどで物体を認識・計測するための撮像・画像処理システム。
図1 開発した技術を搭載した撮像センサー
図1 開発した技術を搭載した撮像センサー
開発したQVGAのチップ。右下は1画素の拡大写真。2つのフォトダイオード(PD1とPD2)を使う。チップ寸法は10mm×8mm。画素ピッチは30μm、次世代品では15μ~20μmにする計画である。さらに次の世代では10μm未満にできると見込んでいる。(写真:Chronocam社)
[画像のクリックで拡大表示]
 

 この撮像センサーでマシンビジョンにパラダイムシフトをもたらしていくと自負している。従来は被写体に関係なく一定のフレーム速度で全画素を同時に撮像(サンプリング)してきた。我々の手法では、各画素が捉えた被写体の動きに応じて、画素ごとに最適な速度でサンプリングする。生物の神経細胞の情報伝達手法にヒントを得た“イベント駆動型”撮像センサーと言える。

 我々の手法は、撮像速度やダイナミックレンジに優れ、わずかな演算能力で画像処理が可能だ。

 リアルタイムの3次元マッピング1~3)、複雑な複数の動体捕捉4~6)、「感覚運動(sensory-motor)」向けの画像フィードバックなどの処理7, 8)を数千Hzの周波数で動作する低コストで電池駆動のハードウエアで実現したり、常に画像を入力したり周囲で起こっていることの流れ(コンテクスト)を理解したりするためにスマートデバイスの実現などが可能になる。いずれも既存技術では消費電力が高くなりすぎるために実現が難しかった。

†感覚運動=自らの動きを把握しながら動作すること。