人々や機械が持つ多種多様な能力をネットワークで結びつけることで、人類にできることを最大限に拡張する─東京大学教授の暦本氏が掲げる「IoA(Internet of Abilities)」構想は、かつてない機器やサービスの領域を切り開く可能性を秘める。単なるアイデアにとどまらず、試作システムの経験を基に段階的な実用化を目指している。「Augmented Reality」や「Augmented Human」など、ユーザーインターフェース研究の第一線で新分野を開拓し続けてきた同氏に、最新の構想と将来展望を寄稿してもらった。(本誌)

(画像:Getty Images)
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 世界にあまねく広がり、とめどなく成長を続けるインターネット。あらゆるモノにつながり、ますます太くなっていくデジタルの神経網を、将来にわたって何に活かしていくべきか。その回答の1つとして、筆者らが提唱するのが「IoA(Internet of Abilities)」である。ネットワークを介して人々やロボットがそれぞれの「能力(Abilities)」を持ち寄り、交換して、今までにない用途の領域を切り開こうという概念だ。

 ネットワークを通じて能力をやり取りできるようになれば、さまざまな応用が可能になる(図1)。例えば、体操選手や冒険家の体験を受け取り、自分では想像もできなかった感覚を味わうことができる(体験の拡張)。あるいは遠隔地にいる自分の分身を通して、いながらにして旅行を楽しんだり、出張を済ませたりすることも可能だ(存在の拡張)。被災地にいる作業員と遠隔地にいる専門家が感覚を共有しながら復旧作業を進めたり、療法士の視点で自分を外から見る、あるいは療法士に自分の感覚に入り込んでもらって、リハビリの効果を高めたりもできるだろう。これらは決して夢物語ではなく、一部は実用段階に入りつつある。いずれはベテランやプロの技能をデジタル化し、効率的に継承することも可能になるかもしれない。

図1 ネットワークを介して人やロボットの能力を活用
図1 ネットワークを介して人やロボットの能力を活用
Internet of Abilities(IoA)は、時間や空間の制約を超えて人やロボットがそれぞれの能力を活用しあえるネットワーク環境のことを指す。目的は人間の能力の強化である。他人の体験を自らのもののように楽しんだり(体験の拡張)、各々の専門性を生かして共同作業をしたり、代理のロボットなどを介して遠隔地を訪れたり(存在の拡張)といった用途が考えられる。
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 本稿では、IoAの概念と現時点での試作システム、今後の課題や将来像を解説する。筆者らがこれまでに開発してきたシステムを中心に、具体例を挙げながら説明していく。