日立製作所の研究開発体制が様変わりしつつある。2015年4月に発表した研究開発体制の再編で組織を一新。新たな技術を生むだけでなく、事業収益の拡大をも目的に掲げた。その新体制の立ち上げに尽力してきた同社CTO の鈴木教洋氏に、これまでの成果や今後の展望を聞いた。

鈴木 教洋(すずき・のりひろ)
鈴木 教洋(すずき・のりひろ)
1986年4月に日立製作所に入社。2005年4月に研究開発本部 組込みシステム基盤研究所長に就任。2012年4月に日立アメリカ社シニアヴァイスプレジデント兼 CTO、2014年10月に中央研究所長、2015年4月に研究開発グループ 社 会イノベーション協創統括本部長 兼 中央研究所長。2016年4月から現職。(写真:加藤 康)

──2016年4月に研究開発グループ長に就任され、御社が2015年4月に発表したグローバルな研究開発体制の再編を引き継ぎました。

 就任前の1年間は、2015年4月に発足した社会イノベーション協創センタ(CSI)を取りまとめる統括本部長を務めました。CSIは、顧客の近くに設置した拠点で、顧客の課題の解決策を「協創」するための組織です。

 一緒に何かをやるためには、まず顧客との関係を構築するところから始める必要があります。そこで、世界の各地域でお客さまと実際にお会いして議論する場を設けました。米国では2016年1月、(シリコンバレーの)サンタクララ市に新たなオフィスを構え、5月に同市で開催された「Internet of Things(IoT) World 2016」で、開発した技術をデモしました。シリコンバレーにはたくさんのIT企業がありますが、日立はOT(Operational Technology)、さらには産業分野の現場のノウハウも併せ持つことに大きな関心を持っていただけました。

 欧州では2015年6月に「社会イノベーションフォーラム」、中国では同年12月に「日立テクノロジーフォーラム」を開催し、それぞれの地域のお客さまをお呼びして、デモを見ていただきました。日本では2015年10月に「東京社会イノベーション協創センタ(CSI東京)」の施設内に「顧客協創スペース」を開設しました。お客さまに来ていただいて、デモを見ながら議論したり、ビジョンの共有やワークショップを行っています。先ほどお話ししたシリコンバレーの拠点にも、同様なスペースを設けています。

 これらを通じて、2015年度には顧客と議論した案件数は179件と、14年度の81件の約2倍になりました。プロトタイプを実際お見せして実証実験に至った案件は、27件から74件へ、3倍弱くらいまで増えました。顧客との関係構築という意味では、かなりの手応えを感じた1年でした。