IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)を活用して、スマートな工場を実現する。第4次産業革命とも称されるこのムーブメントは、世界の産業機器業界で今、最もホットな技術開発テーマだ。産業機器大手の安川電機は外部の企業や研究機関と連携する「オープンイノベーション」で、このテーマの技術革新に挑む。2017年1月には、関連技術を持つベンチャー企業投資を本格化する戦略を打ち出した。同社が掲げる2025年までの経営ビジョンは意欲的だ。売上高で8200億円以上、営業利益で1000億円以上、売上高に占める新規事業の比率で10%以上を狙う。いずれも2016年3月期の2倍以上である。オープンイノベーションは、この目標に向けて業容を広げるカギの1つ。外部との連携によって、従来のコア事業である産業用メカトロニクスをさらに強化すると同時に、再生可能エネルギーや電気自動車(EV)といった新規事業の拡大を目指す。
(聞き手は、根津 禎)

(本記事は「日経エレクトロニクス」2017年6月号の「“安川流”スマート工場に向け「AI」「IoT」で外部を取り込む」の後編です。前編はこちら

自社工場を最新の通信技術やAIのテストベッドに

――2018年度に稼働させる次世代の自社工場「ソリューションファクトリー(仮称)」には、最新の通信技術やAI、自動化技術を導入するそうですね。

安川電機の筒井幸雄氏(写真:桑田 和志)
安川電機の筒井幸雄氏(写真:桑田 和志)

筒井 安川電機の主力製品は、ロボットの可動部に利用する「サーボ(サーボモーターやサーボアンプ)」、産業用モーターを駆動するインバーターといった産業機器向けの部品です。顧客企業がこれらを組み込んだ産業機器を製品化し、顧客企業が販売した機器は最終ユーザーである機器メーカーの工場で商品の製造に使われます。

 一連の商流や製造プロセスの中で、安川電機の製品がどのように利用されているのかを把握しないと、「工場のスマート化」という世界的な流れを正確に捉えた製品を開発できません。そこで自社製品のテストベッドとして、次世代技術を集めた生産工場を立ち上げます。自社工場を自ら進化させることで、製品の課題や新たな開発目標が見えてくるはずです。ソリューションファクトリーは2018年度下期の稼働予定で、本格的に動き出すのは2019年度になるでしょう。実際に導入する新しい製造設備や技術については現在検討中です。

―― 工場のスマート化を進める上で、センシングデータの送受信や、産業機器間のデータのやり取りに使う通信ネットワーク技術はこれまで以上に重要な役割を果たします。安川電機が開発し、公開している通信規格「MECHATROLINK(メカトロリンク)」は既に多くの装置で採用されていますが、今後どのように進化していくのでしょうか。

筒井 MECHATROLINKは、FAネットワークの階層のうち下層に当たる「フィールドネットワーク」の領域に向けた通信技術です。特に、製造装置を動かすサーボの性能を引き出すための技術と位置付けています。

 工場におけるIoT活用の流れの中で、フィールドネットワーク領域では装置間のデータ連携を実現するために、MECHATROLINK以外の複数の通信規格に対応する必要が出てきました。この課題を解決するために2017年1月に製品化したのが、複数の通信プロトコルに対応した通信IC「ANTAIOS」です。グループ企業のドイツprofichip社が開発した通信ICで、サーボアンプに実装することでマルチプロトコルに対応できます。

MECHATROLINK=安川電機が主体となって開発した、工場内ネットワーク通信技術。通信の同期性を重視している。