微細加工技術の進展とそれによる設備投資額の高騰。こうしたトレンドを追い風に台湾TSMC(台積電)社は、半導体業界の中核企業となった。しかし同社といえども盤石ではない。会社の寿命は30年とも言う。環境変化に応じて事業を変えなければならない。大口顧客や各国政府の動きなどから事業リスクを見ていく。

新竹科學工業園區のFab 12A
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 米Analog Devices社、米Apple社、英Arm社、台湾ASE(日月光)社、オランダASML社、米Broadcom社、台湾Foxconn(Hon Hai Precision Industry、鴻海)社、台湾MediaTek(聯發科)社、米NVIDIA社、米Qualcomm社…。各社のCEOやCOOが2017年10月、台北市で一堂に会した。台湾TSMC(台積電)社の設立30周年を祝うためだ(図1)。

図1 30周年シンポジウムの様子
図1 30周年シンポジウムの様子
2017年10月のシンポジウムではTSMC社のMorris Chang氏が司会となり、Analog Devices社、Arm社、ASML社、Broadcom社、NVIDIA社、Qualcomm社の首脳がパネリストを務めた。

 この顔ぶれから浮き彫りになるのが、TSMC社の強さである。10年前から世界ファウンドリー市場で5~6割のシェアを握り続け、2017年3月以降は時価総額において米Intel社を時に超えた注1)。TSMC社には優秀なエンジニアやその卵たちが続々と入社している。同社はボーナスの一種「員工分紅」が極めて多い。2017年に決めた平均支給額は107万台湾ドル(396万円)。普通の給料がゼロだとしても台湾では富裕なサラリーパーソンに仲間入りできる注2)

注1)2017年12月5日時点ではTSMC社が1983億米ドル、Intel社が2082億米ドル。UMC社は65億米ドル。ファブレス1位のQualcomm社は952億米ドル。

注2)開発職であれば8割近くの人々が70~90万台湾ドル(259~333万円)の同ボーナスを受け取れるという試算がある1)

 ただし、この強さが今後も続くとは限らない。TSMC社をけん引してきた創業経営者Morris Chang(張忠謀)氏は2018年6月、86歳で引退する注3)。後を継ぐ経営陣を待ち構えるのは顧客やプロセス技術、米国や中国に関する難題である。開発や営業を束ねるC.C Wei(魏哲家)氏と、管理部門や渉外を統括するMark Liu(劉德音)氏は、難しいかじ取りを迫られる。

注3)Chang氏は中国浙江省に生まれ、Massachusetts Institute of Technologyを卒業。Texas Instruments社半導体事業を統括した後、1987年にTSMC社を設立した。