世界最大のオーディオ機器産業集積地となった中国で、BluetoothイヤホンのEMS(受託製造サービス)/ODM(受託設計製造)を手掛けて急成長している中国企業を紹介する。この企業は、内製と外注を巧みに使い分け高性能品を安く提供している。中国における製造業の勝ちパターンの一つを示しているかもしれない。

 広東省東莞市。この都市をめぐる日本の報道はこの5年ほど、暗いものばかりだった。外資系大工場の移転や閉鎖、性風俗産業の大規模取り締まりなど。しかし、実際は力強く成長を遂げている中国企業が少なくない注1)。Dongguan Koppo Electronics(庫珀)社もその1社である(図1)。

図1 Amazonで大ヒットのKoppo社
図1 Amazonで大ヒットのKoppo社
Bluetoothイヤホンのネット販売で急成⻑したKoppo社は2017年10月、アクティブノイズキャンセラー付きBluetoothイヤホンなどを発表した(a)。同社は売上高の7割を米国で得ており、残る3割は日本、EU(欧州連合)、その他地域がそれぞれ同等という(b)。Koppo社の創業経営者、Ben Wei氏(左)と、研究部門長に相当する新技術創新研發總監のArthur Huang氏(c)。
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注1)スマートフォン大手のGuangdong BBK Electronics Industry(歩歩高)社(Oppo(欧珀)社とVivo(維沃)社を傘下に持つ)は東莞市に本社を置く。同市松山湖には工業用ロボットを手掛ける中国メーカーが集結し始めている。

 Koppo社がブランド企業向けにEMS/ODM供給しているBluetoothイヤホンは、高いコストパフォーマンスで米Amazon.com社の各国のサイトで常に販売ランクの上位にある。中国Soundsoul(音科資訊)社の「SoundPEATS Q12」「同 Q16」、中国Sunvalley(澤宝網絡)社の「TaoTronics TT-BH07」「VAVA MOOV 28(VA-BH009)」などだ1)

 Bluetoothイヤホンの普及を受けて2014年に100人未満だったKoppo社の従業員数は「600人を超えた」(同社 総経理のBen Wei(魏永寧)氏)注2)。Koppo社は2016年にBluetoothイヤホン/ヘッドホンを400万台出荷し、その出荷額は1.8億人民元(30.6億円)という。ただし「IPO(新規株式公開)はまだ考えていない」(Wei氏)と慎重さも見せる。

注2)Wei氏は広東工業大学機電工程学院で学んだ後、1999年にChiaphua(捷和)社中国法人に入社し、生産管理エンジニアとしてコーヒーメーカーや電動歯ブラシを担当。2002年にLin Horn Technology(霖宏科技)社中国法人に入社し、欧州向けヘッドホンや韓国向けケーブルを担当。2006年に民間企業の総経理を任され、携帯電話機向け内蔵スピーカーを販売し、2008年にはヘッドホンの自社ブランド販売も始めた。2010年にKoppo社を設立。Bluetoothイヤホンの自社ブランド事業について同氏は「EMS/ODMと争点が違う。以前の失敗を通じて学んだ。仮に将来手掛けるとしても、その事業会社の株主は私だけではないだろう」と言う。

 2017年10月にKoppo社はアクティブノイズキャンセラー対応品や立体音響の録音対応品をいち早く発表しており、低価格帯のみならず中価格帯でもKoppo社の存在感が大きくなりそうだ。同社は既に日本オーディオ協会の「ハイレゾ」認定を得たイヤホンを製造している。