泥舟になっていた台湾HTC社から社員2000人が米Google社に移籍する。スマートフォン市場の衰退期、そしてAR(拡張現実)市場の勃興期に起きた今回の取引について、両社首脳は詳細な狙いを外部にほとんど話していない。HTC社内に知古を持ち、台湾で動向をウオッチしてきた著者が読み解く。(本誌)
米Google社は2017年末までに、台湾HTC(宏達電)社のODM(受託設計製造)担当社員2000人、関連資産と一部の知的財産権を11億米ドルで取得する(図1)。公式発表によると、Google社はこれを基にハードウエア商品を拡充したり、その使用体験を向上したりするという。HTC社はVR(仮想現実感)用ヘッドセット「Vive」のような製品やスマートフォン(スマホ)を開発して自社ブランドで販売していくとした。
しかし、こうした説明は経済合理性を示すに至っていない。なぜなら、関連資産と一部の知的財産権の価値をゼロとすると、エンジニアの採用に困っていないGoogle社が、1人当たり55万米ドル(=11億米ドル÷2000人)という非合理な金額を使うからだ。ゼロは極端だが、HTC社ODM事業にとりGoogle社は長年唯一と言える発注元。資産に高い価値を認める必要がない。巨費を投じた人材採用という大筋は同じになる。
今回の取引の主眼はそんなところにあるはずがない。大きく言えばスマホ市場が勃興期・黄金期を経てついに衰退期に入ったことへの両社の対策だろう。具体的にGoogle社の狙いは、HTCに対する金銭支援を通じて「スマホ市場における地位固定化」「AR/VR(表1)市場をHTC社の力も使って立ち上げること」「その開発リスクを遮断すること」。そしてHTC社は、「強かった原点に回帰すること」「Google社から得た資金が豊かなうちに他社より早く優れたxR機器を開発すること」を志向している。こう筆者が考える背景を説明する。