電子技術者にとって、個人の力量が問われる時代が訪れた。必要とされる技術の移り変わりが速く、大手電機メーカーは電子技術者の雇用の継続に慎重になっている。電子技術者を正社員として積極的に採用しているのは人材会社だ。その取り組みから、電子技術者職の未来を探った。

 ここ1~2年、電子技術者への求人が活況だ。職種によっては転職・就職を考えている技術者に対して4~5倍もの求人がある。組み込み機器、特に車載電子機器、IoT(Internet of Things)分野の技術者の人気が高い。リクルートの転職情報サイト「リクナビNEXT」編集長の藤井薫氏は、今回の活況について「システムエンジニアが不足していた1990年、メモリー需要が旺盛で半導体技術者が足りなかった1990年半ばを超える歴史的な高水準」と言う。

 ところが不思議なことに電機メーカーが電子技術者の採用を積極化している話は聞かない。

 主な理由は、人材を求めているのが電子・電機以外の業界であることだ(図1)。自動車業界は将来の自動運転時代を見越し、センサーで車両とその周辺、車室内の情報を取り込み、信号処理するための電子回路の設計を増やし続けている。流通や小売り、農業、重厚長大産業など、従来はIT・電子とは無縁に見えた業界からも、IoT化を進めたいというニーズが高い。

図1 技術者は自立が求められる時代へ
図1 技術者は自立が求められる時代へ
(a)現在の電子技術者をとりまく環境とそれが促す変化をまとめた。電機メーカーに属するよりも、人材会社や個人で活躍する技術者が増える傾向にある。(b)電機メーカーにとっても、設計・開発を担う技術者は必ずしも社内に抱える必要はなくなっている。
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 しかし、理由はそれだけではない。国内の大手電機メーカーも、こうした市場の変化に合わせて10数年にわたって事業再編を進めてきたからだ。ここ数年は、中核事業を民生分野から産業分野へシフトさせる傾向が顕著である。この結果、電機メーカーで成長が期待できる中核事業の現場において「電子技術者が足りない」(複数の人材会社)状況さえ発生している。電機メーカーは事業シフトに伴い、技術者も社内研修などを経て異動させているが、十分ではないようだ。

 現場で電子技術者が足りていないにもかかわらず、電機メーカーが採用に積極的にならないのはなぜか。背景には電機メーカーの主要事業が目まぐるしく移り変わることがある。現在注目を集める車載やIoT関連の事業も何十年も続くとは限らない。むしろ今まで以上に変化が激しくなる可能性もある。「固定費の増加につながる正社員を増やしにくいとの経営的判断」(技術者の状況に詳しい人材会社)が下るのも無理はない。