モバイル業界の祭典「Mobile World Congress 2017」が2017年2月27日~3月2日にスペイン・バルセロナで開催された。今年の目玉は、仕様作りが着々と進む第5世代移動通信システム(5G)。技術的には完成する一方、独自仕様と標準仕様の政治的な綱引きが、表面化した。展示では、5Gサービス開始後の新市場を見据えた製品やサービスが登場した。
(本記事は「日経エレクトロニクス」2017年5月号の解説記事「5G商用化が2019年に前倒しへ、仮想化技術の活用にも注目」の後編です)

注目集まるネットワークスライシング

 このように5Gに用いられるMassive MIMOやミリ波帯の活用といった技術はほぼ完成済み。実際、各社はミリ波通信などの5G向け中核技術を2年前のMWCから展示しており、1年前のMWCでは、ほぼ技術的に完成していることを示した。そのためか、今年のMWCでは無線部分の技術についてのアピールは少なく、5Gならではのサービスの在り方を模索する展示が多数を占めた。特に、サービス変革の要である「ネットワークスライシング」の使い方への展示が集中した。

* 第5世代移動通信に用いられる要素技術「Massive MIMO」「ミリ波通信」などの要素技術については、前回の記事「独自仕様乱立、モバイル第5世代に懸念」を参照。

 ネットワークスライシングとは、無線ネットワーク区間、有線ネットワーク区間、それらの間に置かれるコンピューティングリソースのすべてを仮想化し、用途に応じてその構成を動的に組み合わせるという考え方。物理的に同じ装置を使いながら、その上に、あたかも複数のネットワークシステムがあるような形態になるため、そのような名前がついた。5Gでは、「超低遅延・高信頼性」「低速・超大量端末接続」「超高速ブロードバンド」といった使い方が想定されているが、これらに必要な要件を同じネットワークで実現するには現時点では仮想化が最も合理的だ。

 今回、特に目立ったのは、製造工場でのネットワークスライシングの活用である(図6)。Nokia社やEricsson社が展示していた。超低遅延・高信頼性が求められるロボットの制御と、低遅延が求められるAR(Augmented Reality)の合成処理、ブロードバンドが求められる映像監視などを同じ5Gネットワークを通して実現するというもの。ロボットの制御と、ARの合成処理は基地局装置近くに設置されたエッジコンピューターで処理される。

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図6 工場をターゲットにする5G
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図6 工場をターゲットにする5G
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図6 工場をターゲットにする5G
ネットワークスライシングの使いどころとして、各社がアピールしたのが製造現場である。大容量の映像データと、ロボットの制御などのリアルタイムの処理が混在する場所であるためネットワークスライシングが向く。

 Huawei Technologies社の展示では、仮想化を突き詰めていけば、無線区間も周波数、チャネル幅、電力も動的になるとする考え方の「Cloud-AIR」を強調していた。例えば、同じ周波数チャネルで、5Gに対応する端末とは5Gで通信するが、LTEにしか対応しない端末に対してはその瞬間、LTE基地局として働くことで、その周波数を効率的に利用する。現在のシステムでは、周波数チャネルごとに、3G、LTE、5Gと分けて運用している。

 ただ、工場でのネットワークスライシングの活用にしても、無線区間の仮想化を進めるCloudAIRにしても、コンセプトレベルにとどまり、本当に経済合理性や顧客メリットがあり、実導入につながるものなのかという点に関しては疑問が残る内容だった。CloudAIRについては、規制当局との調整も必要だ。