(本記事は「日経エレクトロニクス」2017年5月号の「5G商用化が2019年に前倒しへ、仮想化技術の活用にも注目」の中編です)
Verizonの独自仕様策定が契機
これほど急いで、各社がNSAモードを仕様化するのは、3GPPの規定と離れた5G NRが市場に乱立するのをなるべく防ぐためだ。日本以外では、3GPPが5Gの仕様を策定する前に独自仕様の“5G”をサービス化しようとする動きが顕著になっている。
最も積極的なのが、米Verizon社である(図3)。2016年に独自の無線サービス向けにMassive MIMOなど5Gで使われる技術を取り入れた独自の“5G”仕様を策定。移動通信の基地局ベンダーや移動体通信向け半導体ベンダーに、この仕様に合わせた基地局や端末チップを作らせている。2017年2月には、2017年半ばに11都市で数千人の顧客に対して商用前実験を開始することを明らかにした。早ければ2017年中にも商用サービスを開始するもようだ。ただし、スマートフォンなどの移動通信を想定するのではなく、数Gビット/秒を提供する固定向け無線としてこの技術を使うことを想定している。
また、韓国でも、KT社が2018年2月に開催される冬季五輪に間に合わせる形で“5G”サービスを開始することを予定している。仕様策定から商用化までにはどうしても試験や調整で1年半~2年ほどかかることから、このKTのサービスも暫定的な独自の仕様を使わざるを得ない。ライバルであるSK Telecom社もこれに対抗すべく、5Gサービスの早期開始への動きを見せている。
独自仕様の5Gがあちこちで始まると、相互接続性が保証されないうえ、3GPP仕様の5G関連製品開発に向けられるリソースが分散してしまい、結果として5Gの普及が遅れるなどの弊害が予想される。5G NRが2017年中に確定するなら、今後の設備投資を含めて、これに準拠したシステムを導入しようという抑止力が働く。逆にVerizon社のサービスが商用化後に5G NRが確定された場合、既に商用実績のあるVerizon社の仕様でサービスを開始する移動通信事業者も登場する可能性がある。