予約が殺到し、発売前から人気だった米Sony Interactive Entertainment(SIE)社のVR(Virtual Reality、仮想現実感)用ヘッドマウントディスプレー(HMD)「PlayStation(PS)VR」が、2016年10月13日に発売された。本誌は本体の分解と、開発者のインタビューを通じて、ハードウエアの設計思想や実装の工夫に迫った。

 「誰にでも簡単に使えて、身に着けやすく、長時間装着しても疲れにくい。この目標を実現するため細かな部分にまで気を配った」 ─。米SIE社のEVP(ハードウェアエンジニアリング & オペレーション)で、日本法人ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE) 取締役副社長の伊藤雅康氏は、PS VRの開発指針をこう語る。

 同社がVR用HMDの開発を公にしたのは2014年3月。それからさまざまな改善を施し、2016年10月13日に製品を発売した。公表から発売までの約2年半という期間は、それだけ力を入れて開発した証左と言える。

 公表された当初は「Project Morpheus(プロジェクトモーフィアス)」という開発コード名で呼ばれ、既に試作品があった。この試作品を、さまざまなゲーム開発者に試してもらい、フィードバックを集約。それらを反映して作り上げたのが、PS VRである。そのハードウエアは「以前の試作機とは別物で、製品化に向けて一から作り直した」(SIEハードウェア設計部門 メカ設計部 4課 課長の荒木孝昌氏)という。

 VR事業は、SIE社を含めたソニーグループ全体で総力を挙げて取り組む中核事業。それだけに、失敗は許されない。その覚悟を表したかのように、PS VRのハードウエアには、手間とコストをかけて、実にさまざまな工夫が施されていた。

 それらは3つに大別できる。ユーザーの利便性を高める工夫、装着性を向上する工夫、映像の表示性能を高める工夫である。本稿では開発者への取材を通じて明らかになった、これらの工夫の詳細を取り上げる。