米HP社やリコーを皮切りに、大手のプリンターメーカーが、こぞって業務用3Dプリンター事業に参入する。製品開発時の試作などで、製造業に不可欠な製造装置になりつつあるからだ。「Industry 4.0」時代の有力な生産手段を目指し、生産速度を一気に高める動きも始まった。

 世界最大のプリンターメーカーが3Dプリンターに本気になった。米HP社は、2016年5月に同社初の3Dプリンター製品を発表。米国などでは2016年内、日本では2017年内に発売を予定する。既存の製品と比べて生産速度を最大10倍に高め、材料費とメンテナンス費を合算した運用コストを半減できるという戦略製品だ。素材メーカーやソフトウエアメーカーと協力して、業界標準の基盤技術に育てる構想も打ち出した。3Dプリンターは、いずれは自社を支える事業に育つと期待をかける。

 HP社だけではない。日本の大手プリンターメーカーも、3Dプリンター市場への参入を相次いで表明している。

 他社に先駆けて、リコーはアスペクトと共に開発した3Dプリンター「RICOH AM S5500P」を2015年10月に発売。キヤノンは同年11月に独自方式の製品を数年以内に製品化すると表明した。セイコーエプソンも、いずれは「フルラインアップをそろえる」(同社代表取締役社長の碓井稔氏)と意気込む。迎え撃つ3Dプリンター専業メーカーも「将来のライバルはHP社やキヤノンなどの大手プリンターメーカー」(米Stratasys社で研究開発部門のvice presidentを務めるIgal Zeitun氏)と身構える。

 各社が本腰を入れるのは、3Dプリンターが製造業に不可欠な製造装置になりつつあるからだ。試作段階での利用は普通になりつつあり、一部の製品に使う部品の製造への活用も始まった(図1)。市場規模はまだ限られるが、確かな成長を続けそうだ。

図1 少量生産に強み
図1 少量生産に強み
3Dプリンターは少量生産時の加工の速さやコストの低さに強みがある。加えて、従来の加工法では造形できない構造を造形でき、構造の複雑さが造形のコストにあまり影響しない。そのため、試作品の製作や個人の身体などに合わせた形状のカスタマイズ、性能を追求した製品の生産などで利用が進んでいる。
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 大手プリンターメーカーの期待はそれだけにとどまらない。ゆくゆくは幅広い製品の生産に使う標準的な製造装置に育つとの思惑がある。いわゆる「Industry 4.0」がもたらす「マスカスタマイゼーション」が現実になれば、生産の主役に躍り出る可能性があると見る。

マスカスタマイゼーション=顧客の個別の要求に合わせた製品を、大量生産品と変わらないコストで実現すること