自動運転車向けジャイロセンサーや空間認識センサー、音声認識向け高感度マイク、AR(拡張現実)/VR(仮想現実)向け位置検出センサー、スマートフォン向け小型RF(無線周波)モジュール。これらの性能やコストを左右するMEMSの最新技術を東北大学教授の田中秀治氏が解説する。 (本誌)

 センサー/アクチュエーターに関する先端技術動向を映す国際会議「Transducers 2017(The 19th International Conference on Solid-State Sensors, Actuators and Microsystems)」(2017年6月18~22日、台湾・高雄)で、今後の産業界に影響を与えると筆者が見る成果を応用動向と関連付けて紹介する。

ついにMEMSが300mm化

 今回、多くの参加者を驚かせたのは、台湾TSMC(Taiwan Semiconductor Manufacturing社)が300mm(12インチ)ウエハーでCMOS MEMS(微小電子機械システム)の試作デバイスを発表したことだ。マイクロホン(マイク)や加速度センサー/ジャイロ(角速度)センサーなど大量消費されるMEMSデバイスは、現在のところ200mm(8インチ)ウエハーで製造されている。筆者を含む多くの専門家は、MEMSデバイスの300mm化は当分来ない、いや生きている間には訪れないと考えていた。

MEMSデバイス=MEMSを実現するための要素技術(MEMS技術)を使ったデバイス。

 試作品の製造プロセスは、MEMSデバイス大手の米InvenSense社(TDKの子会社)が開発した「ナシリプロセス(Nasiri Process)」(名称は創業者の名前に由来)に基づく。電気的接合と真空封止を兼ねた金属接合で構造体を安価かつ高信頼にパッケージングするプロセスである。TSMCは、加速度センサー、MEMS共振子、圧力計測用のピラニゲージを試作した(図1)。

図1 TSMCが発表した300mmのMEMS
図1 TSMCが発表した300mmのMEMS
(a) 300mmのMEMSウエハー。(b) キャップウエハーのある部分とない部分。(c) ウエハーレベルでパッケージされたMEMSチップ。(d) CMOS回路と集積化されたMEMSの断面写真。(Transducers 2017、論文番号:W1B.002、pp. 402-405、TSMCと台湾国立清華大学のデータ)
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 基調講演に登壇したTSMC Fellow、 Vice PresidentのAlexander Kalnitsky氏が明らかにし、詳細については別の研究者が発表した(論文番号:W1B.002、pp. 402―405)。Kalnitsky氏は、今回のプロセスは開発段階にあって、事業化の具体的な計画はないと述べたが、同社が多大なコストのかかる開発を単に興味本位で行うとは考えにくい。今後もMEMS市場が力強く成長すれば、300mm化が定着し販売単価のさらなる低下と応用の広がりが進むかもしれない。300mmプロセスのみで供給される最先端CMOS LSIとの集積による高性能化の進展が期待できることは言うまでもない(「加速するモジュール化」参照)。