無線LAN技術の大きなブレークスルーが3つ相次いで出てきた。全2重通信、高精度測位、超低消費電力化技術である。これらが実用化されれば、無線LANだけでなく、「5G」と呼ばれる次世代移動体通信、さらにはBluetoothやZigBeeといった近距離無線通信にも大きな影響を与え、将来は無線技術の地図を大きく塗り替えていく可能性が高い。

 2016年春になって無線LANに大きな技術革新が相次いだ。その柱といえるのが、(1)同一周波数チャネルでの全2重通信(Single-frequency Full-Duplex wireless communications:SFD)、(2)1台のアクセスポイント(AP)で精度が数十cmという高精度測位技術、(3)端末の無線送信電力が従来の1/1万になる超低消費電力化技術の3技術だ(図1)注1)

注1) (1)のSFDは無線の物理層やMAC(Media Access Control)層の改変を含む大きな変革になるが、(2)と(3)は、既存のI EEE802.11規格の無線LAN製品と相互接続性を実現できる。(2)の高精度測位は既存の無線LAN製品のファームウエアを更新するだけで対応できるため、電波法さえクリアすれば近い将来利用できる可能性がある。

図1 無線LANに驚きの技術が続々
図1 無線LANに驚きの技術が続々
無線LANを大きく変革する技術3つの概要とインパクトを示した。
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 (1)のSFDは100年以上の無線通信の歴史でずっと不可能と思われていた技術である。利用可能になれば、伝送容量が約2倍になる上に、無線LANとは異なる仕様の無線を含む複数の無線通信で1本のアンテナ素子を共用したり、通信距離を自在に延伸させたりできるようになる。

 (2)の高精度測位技術は室内での無線端末の位置を高い精度で検出できるため、利用者の認証に位置情報を用いたり、ロボットなどの制御が容易になったりする。(3)の超低消費電力化技術は、IoT端末の無線通信に必要な電力を激減させ、電池交換を事実上不要にできる。

 いずれも当初は無線LANへの適用を想定した技術だが、汎用性は高く、Bluetoothなど近距離無線技術から、通信事業者向けの移動体通信システムまで広がる可能性が高い。(1)の全2重通信については既に、移動体通信システムへ応用するための研究や標準化への働きかけが始まっている。