「日経エレクトロニクス」2017年6月号のEmerging Tech 「米UC Davisが進める「SmartFarm」計画、農作物の3D形状把握や協業ロボットなど、日経Roboticsから今月の1本」を先行公開した記事です。

 米カリフォルニア州は全米で最も農業が盛んな州だ。州都サクラメント市郊外の農業地域にキャンパスを構えるUniversity of California, Davis校(UC Davis)は農業用ロボット開発のパイオニアで、1950年代に早くも「トマト収穫ロボット」を実用化したことで知られる。同大学は2016年、農業用ロボットの開発プロジェクトや関連技術の「SmartFarm Initiative」を開始した。同大学のBiological & Agricultural Engineering Departmentの教授で、SmartFarm Initiativeのディレクターを務めるDavid Slaughter氏(図1)に、その狙いなどを聞いた。

図1 David Slaughter教授
図1 David Slaughter教授
米University of California, Davis校の「Biological & Agricultural Engineering Department」が2016年から始めた「SmartFarm Initiative」のディレクターを務める。
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──UC Davisには農業用ロボット開発の長い歴史があると聞く。

 Biological & Agricultural Engineering Departmentは100年以上の歴史があり、農業用ロボット開発の歴史は1930年代に遡る。当時から変わらないのは、生物学と工学を融合した「システムズアプローチ」を採用していることだ。1930年代に「トマト収穫ロボット」の開発を始めたJack Hanna教授は生物学者で、ロボットの実現と同時に品種改良にも力を入れていた。複数のトマトの実が同時に成熟するような品種を開発したのもその1つ。収穫の効率を改善するためには、成熟度合いを平準化する必要があった。機械で扱っても崩れないように、皮の強い品種を開発したりもしていた。

 SmartFarm Initiativeでも、システムズアプローチの視点を重視している。最大のテーマは、人工知能(AI)やロボティクスの進歩が生物学や農業に与える影響だ。

 例えば従来のAIやロボティクスは、複雑な3次元(3D)構造を持つ作物の取り扱いが苦手だった。こうした限界に対応するために、「heterostyly(異型花柱性)」と呼ばれる、2次元的で単純な構造の品種を生み出すことが生物学に求められていた。

 AIやロボティクスが複雑な3D構造体に対応できれば、従来よりも幅広い種類の作物にロボットを応用できる可能性がある。次世代の農業に必要なスマートセンサー、スマートロボット、スマート作物、スマートアニマルを開発するのが、SmartFarm Initiativeだ。UC Davisの約50人の研究者が参加している。

──なぜ今、SmartFarm Initiativeを開始したのか?

 我々は経済学的な視点も重視しており、SmartFarm InitiativeにはUC Davisの農業経済学者・教授であるEdward Taylor氏も参加している。Taylor氏によれば現在の農業は「労働力枯渇期」に当たるという。米国農業はもともと労働者の年齢が上昇傾向にあったが、Trump政権の厳しい反移民政策で、労働力枯渇が深刻化する恐れがある。

 農業ロボットが普及するかどうかは、経済的な状況に依存している。当学部は過去にも「レタス収穫ロボット」などを開発したが、当時は今ほど労働力が枯渇していなかったため、コスト的に割に合わず製品化できなかった。現在は状況が大きく変わっており、農業ロボットが受け入れられる可能性が高まっている。