VR(Virtual Reality)用ヘッドマウントディスプレー(HMD)が2016年、続々と製品化される。その“先行組”の1つが、同年4月に799米ドルで発売された台湾HTC社の「Vive」である。発売前の予約では、開始から10分間でおよそ1万5000台の注文があったという。6月までの3カ月間で約30万台の生産を計画しているようだ。順調な滑り出しのViveを入手・分解し、VR用HMDの実態に迫った。

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 2016年に市場が立ち上がることが期待されているVR(Virtual Reality)用ヘッドマウントディスプレー(HMD)。さまざまなメーカーからVR用HMDが登場する中で、特に注目を集めているのが、米Oculus VR社の「Oculus Rift」(2016年3月発売)と台湾HTC社の「Vive」(同年4月発売)、米Sony Interactive Entertainment(SIE)社の「PlayStation(PS)VR」(同年10月発売予定)の3機種である。

 このうち、最も測位範囲が広く、かつセンサーモジュールや専用コントローラーといった装備品(構成要素)が充実しているのがViveだ。ユーザーが装着したHMD本体と両手に持つ専用コントローラー2個の位置を、4m×3mの範囲内で特定できる(図1)。

図1 ユーザーの位置を広範囲で特定
図1 ユーザーの位置を広範囲で特定
HTC社のHMD「Vive」の開発者版によるデモを実施(a)。Viveでは、2台のレーザーモジュール「Basestation」を室内に対角に配置して位置を検出する(b)。対角距離は最大で5mで、4m×3mの範囲で位置を検出できるという。「Link box」を介してHMD本体とパソコンを接続する(c)。専用コントローラーは、HMD本体とBluetoothで接続されているようだ。
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 VRコンテンツでは、仮想空間内をあたかも現実だとユーザーに感じさせることが重要である。そのためには、同空間内で自由に体(頭部や手足など)を動かしたり、移動したりする感覚をユーザーに与えるのが不可欠である。Viveでは測位範囲が広い分、動作の制約が少なく、こうした感覚をユーザーに与えやすい。

 Viveでは、室内に対角に配置したモジュール「Base station」から照射した赤外レーザー光を、HMDや専用コントローラー内に搭載した赤外受光素子で受けて、その結果からHMD本体やコントローラーの位置を推定する。詳細は不明だが、部屋全体を照らすように出力する赤外光を基準とし、縦方向と横方向にそれぞれ走査する別の赤外レーザー光を、HMD本体やコントローラーの受光素子がどのタイミングで検知できるかによって、位置を特定しているようだ。

 前述の3機種の中でも、測位範囲が広い、構成要素が多いといったことから、ViveはVR用HMDの「リファレンス(参照)機」(ある電子部品メーカーの技術者)と目されている。そこで日経エレクトロニクスでは発売されたばかりのViveを入手し、分解した。

 そこから見えてきたのは、フレキシブル基板(FPC)と受発光素子を多用する特殊なハードウエア構成だった。