2006年に日本で産声を上げたペロブスカイト太陽電池。全固体セルの変換効率は2008年の0.4%から4年で10.9%、さらに3年後には22%を超えた。今から数年後には、GaAs系太陽電池並みの高効率発電を、Si系太陽電池の数分の1の価格で実現できる可能性がある。その成否は、日本や世界のエネルギー問題を大きく左右しそうだ。

 「これは本物」─。京都大学 准教授の若宮淳志氏は、太陽電池の“期待の大型新人”であるペロブスカイト太陽電池(Perovskite Solar Cell:PSC)をこう評価する。同電池の最大の特徴は、極めて発電性能が高く、しかも格安で製造できる太陽電池になる可能性が高いことだ(図1)。

ペロブスカイト=本来は「灰チタン石」とも呼ばれる鉱物CaTiO3を指す。その後、そのABX3という結晶構造が多くの鉱物に非常に一般的であることが分かり、その構造を備えた材料全般を指すようになった。コンデンサーなどに使われるチタン酸バリウム(BaTiO3)や、圧電材料のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)もペロブスカイト構造を採っている。

図1 GaAs系並みの性能をSi系より安く実現へ
図1 GaAs系並みの性能をSi系より安く実現へ
ペロブスカイト太陽電池(PSC)で今後実現可能と見られている変換効率や価格と、既存の太陽電池各種とを比較した。人工衛星や集光式と呼ばれる特殊な太陽電池で使われているGaAs系太陽電池は変換効率は高いが、価格は普及したSi系太陽電池の100倍前後と高い。PSCは近い将来、GaAs系太陽電池並みの高い性能を、普及したSi系太陽電池の数分の1の価格で実現できると推測されている。
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 開発に携わる研究者や技術者は、理論的には変換効率33%を見込む1)。現実的に考えても、近い将来に変換効率25%の太陽電池を、現在普及しているSi系太陽電池の1/5の価格で実現できる、とみる。「変換効率25 %のPSCの場合、年産1GW程度の量産規模で、運搬費用なども含めた初期導入コスト15円/W、発電コスト7円/kWhを実現できる」(東京大学 教授の瀬川浩司氏)注1)。7円/kWhは経済産業省などが、技術的に大きなブレークスルーを前提に2030年に実現する目標を立てている。PSCがその技術的ブレークスルーとなり、しかも実現時期を10年近くも前倒しできる見通しになったわけだ。

注1)PSCパネルの変換効率は25%、耐久性は10年を想定した試算である。

 さらに、Si系太陽電池などと積層する「タンデム型」にすれば、人工衛星に使われているような変換効率35%前後の太陽電池を、約1/100の価格で入手できるようになる見通しだ。

 太陽光発電は日本および世界のエネルギー源として既に重要な位置を占めつつある。PSCは、太陽光発電の重要性をさらに大きく高める可能性がある。