脳の神経細胞網を模した「脳型チップ」の研究開発に乗り出す企業が増えてきた。人工知能(AI)の処理を桁違いに高い電力効率で実現するチップや、深層学習(ディープラーニング)技術を超える高度な能力の実現に期待がかかる。早ければ数年以内に、ディープニューラルネットワーク(DNN)の推論用として実用化が始まりそうだ。
「脳に着想を得たコンピューティングは、4年以内にもそれなりの規模の事業に育つと期待している」(米IBM社、IBM Fellow and Chief Scientist for Brain-Inspired ComputingのDharmendra Modha氏)。
脳を構成する神経細胞網の構造に倣ったIC、いわゆる「脳型チップ(Neuromorphic Chip)」の研究開発が勢いを増している。2014年に開発した「TrueNorth」の実用化を目指すIBM社を追って、2016年には米HP社やNEC、東芝などが名乗りを上げた。パナソニックやデンソーなど、以前から研究開発を継続する企業もある。
各社が期待するのは、既存の人工知能(AI)チップ1)を大きく凌ぐ特性の実現だ。大きく2つの狙いがある(図1)。まず、現在のAIチップが前提とする深層学習(ディープラーニング)の処理を、大幅に高い電力効率で実行すること。現行のAIチップが従来の論理LSIの枠内にとどまるのに対し、演算素子やそれらの接続形態を脳に似せることで文字どおり桁違いの効率を目指す注1)。主に、学習済みのDNN(ディープニューラルネットワーク)を使った推論処理を対象とし、TrueNorthを筆頭に数年以内の実用化を見込める。
もう一つが、従来の深層学習では達成が難しい、高度な能力の実現である。神経細胞(ニューロン)や脳組織の動作の模倣に、人に近い知性につながる突破口があると見る。この方向を目指す研究は、まだ基礎の段階で製品化はかなり遠そうだ。