ECU(電子制御ユニット)の性能を左右するプロセッサーIC(集積回路)。そのパッケージ技術が大きく変わる兆しが出てきた。自動車業界で、米Apple社が2016年9月に発売した「iPhone7」などに採用した最先端のパッケージ技術をECUのICに使う検討が進む(図1)。低コストと薄型化を両立し得る。2020年以降に実用化する可能性がある。

図1 iPhone 7で採用されたFOWLP
図1 iPhone 7で採用されたFOWLP
(a)米Apple 社のスマートフォン「iPhone7」。(b)DRAMメモリーの下に置くアプリケーションプロセッサー「A10 Fusion」のパッケージにFOWLPを採用した。FCBGAと比べてパッケージ基板がない分、薄くできる。
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 シリコンウエハーから切り取った半導体チップを、樹脂などで封止するパッケージ技術。Apple社がiPhone7などのアプリケーションプロセッサー「A10Fusion」に採用したのが、「FOWLP(fan-out wafer level package)」である。パッケージ基板がないため、原理的にはコストを下げ、パッケージを薄くできる。

 FOWLPの採用に熱心なのがデンソーだ。同社半導体実装開発部第2PF開発室担当次長の大竹精一郎氏は、2016年11月に開催された「第3回電子デバイスフォーラム京都」で、「『民生技術の後追い』は終わりになりつつある。最新技術を同時に取り入れる時節が到来する」と話し、FOWLPに強い関心を示した。自動運転技術の開発などで、自動車に搭載するプロセッサーICの数が増える見込みの中、コストを少しでも下げたい狙いがある。

 従来の自動車向け半導体パッケージは、実績を十分に積んだ、いわば“民生機器の10~15年遅れ”の技術を採用し、「不良品が出ない工程を考える」(大竹氏)ことで実現してきた。こうした発想ならば、FOWLPの採用が2030年以降になっても不思議はない。それが年間数億台も売れるiPhoneでの採用実績ができたことで、カーナビなどのECUにFOWLPをもっと早く使えるのではないかとの見方が出始めた。デンソーは「他社との協業も視野に入れ、新型パッケージ技術の採用を検討していく」(大竹氏)という。

 FOWLPは、半導体チップをウエハー形状の支持台などに並べ直して封止、ウエハープロセスを使って再配線層を形成して切り取る技術である。もとは端子の少ない超小型パッケージ用に開発された技術で、自動車には数mm角と小さなミリ波レーダーICに使われている。最近、多端子・大型パッケージに対応できるようになり、Apple社がiPhoneでの採用に踏み切った。

 自動車業界ではかねて、次世代のパッケージ技術としてFCBGA(flip chipball grid array)を有力視していた。同技術も多端子のチップをグリッド状に端子が並ぶパッケージに収めており、FOWLPとほぼ同等の機能を持つ。FOWLPが優れるのは、半導体チップを載せるパッケージ基板がないという点だ。

 半導体チップの高性能化に伴って既存パッケージからFCBGAに切り替えると、微細配線のパッケージ基板分のコストが大幅に上がる。そこで、FCBGAへの移行に割り込む形で、パッケージ基板を省いたFOWLPが脚光を浴び始めたというわけだ(図2)

図2 2020年に向けて、多機能化に合わせたパッケージが必須に
図2 2020年に向けて、多機能化に合わせたパッケージが必須に
ECU基板に搭載される主な半導体パッケージの変遷と今後の予測を示した。一般には、2020年代にFCBGAが必要になるとされているが、FOWLPが採用される可能性が高まっている。デンソーの資料を基に作成。
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