エンジン開発を手掛けるベンチャー企業の米Achates Power社(API)は、一つのシリンダーの中で二つのピストンが向い合って動く「対向ピストンエンジン」の開発を進めている。既存のエンジンを超える効率を実現できる可能性がある。このほど日本で製品化のパートナー探しを本格化し、日本の報道関係者に開発現場を公開した(図1)。

図1 米Achates社が開発した対向ピストンエンジン
図1 米Achates社が開発した対向ピストンエンジン
(a)構造の透視図と(b)実験用エンジン。一つの気筒内に向かい合って動く二つのシリンダーがあり、上下2本のクランクシャフトを駆動する。
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 対向ピストンエンジンは原理的に、次のような利点がある。一つめは、冷却損失が少ないことである。二つのピストンが対向して動くため、燃焼室は二つのピストン上面に挟まれた空間となり、水冷されているシリンダー壁面に燃焼ガスが接触する面積が小さいため、冷却損失が抑えられる。

 二つめは、エンジンの小型化・部品点数の削減が可能になること。2サイクルエンジンであるため、同じ出力を発生するなら排気量を小さく、気筒数を少なくでき、エンジンを小型にできる。ピストンバルブのためバルブ系の部品が不要になり、部品点数を減らせる。

 NOx(窒素酸化物)を減らせるのが三つめ利点である。2サイクルエンジンでは同出力のエンジンなら原理的に排気量を半分にできる。しかし同社は7割程度への縮小にとどめ、同時に1回の爆発で燃焼させる燃料の量を4サイクルエンジンよりも減らした。これにより燃焼温度が下がり、NOxの排出量が減る。さらに冷却損失が減り、振動・騒音も下げられる(図2)。

図2 排気量とBMEP(正味平均有効圧)の関係
図2 排気量とBMEP(正味平均有効圧)の関係
排気量、BMEPともに4サイクルエンジンの2/3程度に小さくして燃焼温度を下げ、NOxを減らすとともに、冷却損失を減らして熱効率を向上させた。
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 四つめの利点は、ポンピング損失が減ることである。対向ピストンエンジンは、シリンダーの側面に開いた断面積の大きい穴で吸排気をする。このため吸気抵抗が低く、ポンピング損失(吸気に伴う損失)を低減できる。

 同社が試作したエンジン(排気量4.9L・直列3気筒・スーパーチャージャー付きターボディーゼル)の場合、最大熱効率は44%、運転領域全体の平均熱効率は42.6%である。平均熱効率は、同等出力の市販エンジンの35.3%より約2割高い。2020年までに平均熱効率を46.6%と、市販エンジンより3割高めることを目指す。また、NOxやPM(粒子状物質)の排出量は、SCR(選択還元触媒)やDPF(ディーゼル・パーティキュレート・フィルター)を装着すれば、米国の現行規制「US2010」に適合できる水準を達成している。