トヨタ自動車は2017年9月、ドイツETAS社主催のセミナーで自動運転技術の現状や課題について講演した。技術的な課題として特に大きいのが、半導体(プロセッサー)の処理能力が足りないことだという。

 「自動運転に必要なプロセッサーの処理能力は120TOPS。現状のパソコン用プロセッサーの2300倍以上だ」──。トヨタ常務役員未来創生センター統括先進技術開発カンパニーExecutiveVice Presidentの奥地弘章氏は講演の中でこう述べた(図1、2)。

図1 自動運転向けプロセッサーの処理能力
図1 自動運転向けプロセッサーの処理能力
自動運転に必要なプロセッサーの処理能力は120TOPSで、現在のパソコン用CPUの2300倍以上になる。トヨタの資料を基に本誌が作成。
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図2 トヨタ常務役員の奥地弘章氏
図2 トヨタ常務役員の奥地弘章氏
ETAS社主催の「車載制御・組み込みシステム開発シンポジウム2017」でトヨタの自動運転への取り組みについて講演した。本誌が撮影。
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 各種センサーから集めた情報を統合的に処理したり、深層学習(ディープラーニング)を使って物体認識や経路探索(パスプランニング)をしたりする際に、プロセッサーに高い処理性能が求められる。特にディープラーニングでは、ニューラルネットの階層を増やすと認識精度が高まる半面、より多くの処理性能が必要になる。このため、階層を最適化するとともに、「処理内容に応じて最適な半導体を選ぶことが重要になる」(同氏)という。

 例えば、画像のフィルター処理のように繰り返し使う定型的な機能は専用回路(IPコア)で実現する。カメラの画素数に応じて処理内容を変えるなど、ある程度の柔軟性が求められる場合はFPGAを選択する。画像認識など、並列処理が求められる場合はGPU、認識結果に基づいて経路探索を行う場合はCPUをそれぞれ使う。

 用途に応じて最適な半導体を選ぶことで、自動運転に必要な処理時間を約1/10にできることをすでに検証済みであり、「2020~2023年に入手可能な半導体で自動運転を実現できる見通し」(同氏)という。今後、次世代のニューロチップや量子コンピューターが車載できるようになると、「より高度な自動運転が可能になる」(同氏)。