ホンダがタイに新設したクルマの完成車工場であるプラチンブリ工場。2016年3月から稼働を開始し、現在は4ドアおよびハッチバックの「Civic」「Jazz(日本名:フィット)」「City(同:グレイス)」の4車種を混流生産している。

 注目すべきは、溶接して塗装を施した後のボディーに各種の部品を組み付けて完成車に仕上げる「組立工程」だ。同社はここに、セル生産方式のコンセプトを投入した新しい発想の生産ライン「ARC(Assembly Revolution Cell)ライン」を導入した(図1)。従来のベルトコンベヤー方式(ライン生産方式)から切り替えたのだ。「自動車工場にセル生産方式を応用して量産しているのは、世界でARCラインだけ」(ホンダエンジニアリング生産技術部生技0Gr技師の小佐々伸大氏)という画期的な生産ラインである。

図1 新発想の生産ライン「ARCライン」
図1 新発想の生産ライン「ARCライン」
クルマの組立工程で部品の組み付け作業を行う。セル生産方式の考えを自動車生産に応用した。
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 ARCラインの数値上の効果について、ホンダは「生産性を10%改善した」と公式には発表している。だが、これは控えめな数字だろう。実力値はもっと高いはずだ。

 これまでセル生産方式は、家電製品や産業機器のうち比較的小さな製品に導入されてきた。設備投資額が低く、多品種少量生産に適応できることから、コスト削減やリードタイム短縮などで大きな成果を工場にもたらしてきた。30%を超える大きな生産性を向上させた事例も少なくない。

 ところが、自動車部品は別として自動車の組み立てにセル生産方式は普及しなかった。その理由の1つに小佐々氏は「大きさ」を挙げる。セル生産方式の利点は、作業者があまり移動する必要がないため損失(ロス)が少ないことにある。屋台セル生産方式などは、その典型例だ。だが、自動車のボディーは大きいので、普通にセル生産方式を導入すると作業者が部品やツールを取りに行く距離が長くなる上、大きな姿勢変化も必要となる。すなわち、「付帯動作」と呼ぶムダな動作が増えるのだ。

 逆に言えば、この付帯動作を削減すれば自動車工場にセル生産方式を導入できる。そして、それを成し遂げたのがARCラインというわけだ。