トヨタ自動車と日産自動車は、大阪府立大学と共同で、部品の溶接工程の準備にかかるコストを大幅に削減する技術を開発した。溶接時に熱で生じる鋼板のひずみや変形量をコンピュータで事前にシミュレーションすることで、試作工程を減らせる。両社は2018年にも量産車の生産ライン構築に適用する見込みだ。

 トヨタは今回のシミュレーション技術をアーク溶接の条件検討に適用して、サスペンションメンバーなど骨格部品の熱変形量を解析する。複数の部品を組み合わせてアーク溶接する際、立体的な熱変形量を正確に予測することで溶接する順番や治具で固定する箇所などを適正化できる。

部品のひずみを予測可能に

 例えば部品同士を溶接する際、溶接作業の順番を誤ると部品の変形によって目的の箇所を溶接できなくなる恐れがある。シミュレーション技術を使えば「フロント・サスペンション・メンバーのロアパネル溶接では、部品全体のひずみを抑制するように溶接順番を変えて溶接する」といった判断が可能になる。

 従来手法では、フロント・サスペンションなど立体的な形状や複数箇所の溶接シミュレーションだけでも膨大な計算リソースが必要で、計算に数週間の期間がかかっていた。今回の手法を使えばサスペンションメンバーの計算時間を最大1/12に削減できる。大きな部品であれば100倍以上の高速化が期待できるといい、これまでは難しかったピックアップトラックのような大きなフレームに対しても溶接作業の最適化が期待できる。トヨタ自動車の担当者は「今回の技術を積極的に導入し、生産工程だけでなく製品設計にも適用していきたい」と述べる。同社は2017~2018年にかけてプログラムの調整を進め、生産工程への実用化を目指す見込みだ。

 日産は、鋼板同士を溶接する「スポット溶接」に同シミュレーション技術を利用する。スポット溶接は、重ねた鋼板同士を電極で両側から挟むように押し付けて電流を流し、鋼板同士を溶接する技術だ。溶接の間隔や電流値、電極を押し当てる強さ(加圧力)、通電時間など、さまざまな試作を通して最適条件を導き出す必要がある。同社はシミュレーション技術を使うことで、こうした手間を省くのが目標だ。

 日産で溶接作業の技術開発を担当する日産自動車プラットフォーム・車両要素技術開発本部車体技術開発部の千葉晃司氏は、「新しい素材を導入したり、部品の組み合わせを変えたりする場合、さまざまな試作を試して一番良い条件を割り出す。

 このような条件出しには1~2年の期間を要するので効率が悪い。シミュレーション技術を使えば事前に溶接条件の当たりをつけたり、ロバスト性(外乱や誤差に対する許容性)を評価したりできる」と期待を寄せる。

 多くの場合、自動車メーカーは蓄積してきたデータベースを基に溶接の条件を割り出す。近年、車体剛性の向上や軽量化を目的に強度の高い高張力鋼板やアルミニウム(Al)合金などの導入が進んでいることから、従来のデータベースだけでは条件を求めることが難しくなっている。高張力鋼板材の適用で鋼板が薄くなれば溶接時の変形が大きくなるため、さらに溶接も困難になる、という問題があった。

 シミュレーションを導入した場合、日産の千葉氏は生産ラインの溶接条件を適用するまでの準備期間とコストをそれぞれ最大で1/6に削減できると見積もる。2018年度に生産する車両で、同技術を利用して構築した生産ラインを稼働する予定だ。