ネットワークにつながる自動車に、ブロックチェーンを使う研究が活発になっている。信頼性の高いデータの記録を、安価に実現する可能性があるからだ。トヨタ自動車が検討を始めた。現状は即時性が低く、大量のデータを扱いにくい。解決に向けた開発が進み始めた。

 本誌が2017年5月末に開催したセミナー「始まるクルマのブロックチェーン」で、4人の専門家が自動車に応用する可能性と技術の見通しを解説した。

 ブロックチェーンは「分散台帳」と呼ばれ、分散したコンピューターにデータを記録する技術。仮想通貨「ビットコイン」の中核技術となっている。

 最近、自動車メーカーが同技術の研究に着手し始めた。例えばトヨタの研究子会社の米Toyota Research Institute社は2017年5月、ブロックチェーンを自動車に使う検討を始めたと発表した。

 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究部長・准教授の高木聡一郎氏は、その理由として同技術が有する三つの特徴を挙げた(図1)。

図1 三つの特徴を自動車に応用できる
図1 三つの特徴を自動車に応用できる
ブロックチェーンには大きく三つの特徴がある。国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの高木聡一郎氏は、この三つの特徴を自動車の開発やサービスに生かせるとみる。同氏の資料を基に作成した。
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 第1に、“分散したコンピューター間でデータを共有するため、記録を改ざんしにくいこと”である。例えば走行距離や整備記録、保険に使うデータ、開発時の試験データなどの管理に使える。

 第2に、“エンティティー(実体)と情報資産を結びつけられること”。特定のモノと情報をひも付けて、シェアサービスにおける使用権や利用料などの情報資産の所有者と利用者が転々と変わるサービスに使いやすいという。

 第3に、“(端末間の通信である)ピア・ツー・ピア(P2P)を使うことで、特定の管理者がいらないこと”を挙げた。公共性の高い交通情報のやり取りや、複数の業界にまたがるサプライチェーン(供給網)の管理に使えると考える。

 このうちシェアサービスにブロックチェーンを使う考えに着目し、日本で商用化したのがガイアックスだ。自動車などをシェアするときの本人確認データの記録に、ブロックチェーンを使えるサービス「TRUST DOCK」を始めた。

 同社技術開発部開発マネージャーの峯荒夢氏が、開発の過程を明かした。ブロックチェーンで有名なのはビットコインだが、世界には複数の種類がある(図2)。このうちガイアックスはビットコインの技術を選んだ。「8年以上にわたる運用実績があり、抜群の安定感がある」(峯氏)ことが決め手だ。一方で開発者として見ると「自由度が低い上に、アセンブラ言語みたいで扱いにくくて苦労した」と明かす。

図2 代表的なブロックチェーン
図2 代表的なブロックチェーン
ビットコイン(Bitcoin)のブロックチェーンが有名だが、種類は多い。ビットコインのように誰もが使えるものを「パブリックチェーン」と呼ぶ。一方で、限られた複数の企業の間で使える「コンソーシアムチェーン」や、自社のみで使う「プライベートチェーン」の開発が進む。このほか、ブロックチェーンの機能を補完する「サイドチェーン」と呼ばれるものもある。ガイアックスの峯荒夢氏の資料を基に作成した。
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 ビットコイン以外で注目を集めるものに、「Ethereum(イーサリアム)」がある。ガイアックスがイーサリアムを選ばなかった理由として峯氏は、「開発の自由度が高くて実装しやすいが、開発途上で安定感に欠ける」ことを挙げた。