ドイツVolkswagen(VW)社は、シャシーのECU(電子制御ユニット)開発を低コスト化する「FIL(Function In the Loop)」と呼ぶ新手法を提唱した(図1、2)。機能検証の際に、サスペンションなどの機械部品を複数種類用意する必要がなく、試作にかかるコストや期間を減らせる。現在、ドイツContinental社と共同で新手法の有効性を評価しており、効果が確認でき次第、実用化する考えだ。

図1 新たな開発手法として「FIL」を提唱
図1 新たな開発手法として「FIL」を提唱
VW社はシャシーの機能を開発する手法として、「FIL(Function In the Loop)」と呼ぶ新たな手法を提唱した。機械部品に実物ではなく、シミュレーションモデルを使うことで、コストの低減や開発期間の短縮を狙う。
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図2 VW社でシャシー開発を担当するDaniel Frechen氏
図2 VW社でシャシー開発を担当するDaniel Frechen氏
2017年6月に開催された「dSPACE Japan User Conference 2017」でFILについて講演した。

 これまではECUと機械部品の両方に実物を使って機能検証をする「HIL(Hardware In the Loop)」と呼ぶ手法が多かった。例えば、ECUで制御するサスペンションを開発する場合、機械部品の挙動を完全にモデル化することが難しく、実物のサスペンションを使うことが多かった。具体的には、サスペンションを加振して車両走行時の振動を模擬し、ECUで制御しながら機能を検証する。ECUも新機能はシミュレーションモデルを使って開発するものの、新機能以外の部分は実物のECUで代用することが多かった(図3)。

図3 機械部品をモデル化
図3 機械部品をモデル化
ECUの新機能を開発する場合、旧機能の部分に実物の従来ECUを使うことがある。これがHILである。VW社が提唱したFILは、実物の従来ECUを使いながら、制御対象となる機械部品をモデル化する取り組みといえる。
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 実物を使うHILでは検証の精度を高められる半面、テスト条件を変えようとすると、コストが高く付いてしまう。サスペンションのパラメーターを変えるためには、部品を取り替える必要があるからだ。サスペンションで油圧ダンパーの調整をする場合、油圧経路のオリフィス(流量調節部品)を事前に複数種類作っておき、取り替える必要がある。

 これに対し、FILはサスペンションに実物ではなく、シミュレーションモデルを使うため、オリフィスのようなパラメーターも自由に変えられる。これによって開発時に必要となる機械部品の準備費用や試作期間を大幅に削減できる。

 ECUと機械部品の両方にシミュレーションモデルを使う「MIL(Model In the Loop)」や「SIL(Software In the Loop)」と呼ぶ開発手法はすでに利用されている。ただ、MIL/SILでは簡易的なモデルを使っているため、精度の高い機能検証は難しい。FILは、HILとMIL/SILの中間的な開発手法と位置付けられる。VW社は今後、「FILという概念がHILやMIL/SILと同じように自動車業界に定着していく」(同社Simulation Chassis Development Electronics Validation and Virtual MethodsのDaniel Frechen氏)と予想している。