電動車の覇権に向けた布石として、欧州メーカーがクルマ電源の48V化を進めている。日経Automotiveが2016年5月末に都内で開催したセミナー「48V化で変わるHEV勢力図」では5人の専門家が登壇し、48V規格の事例や最新動向、ハイブリッド車(HEV)市場に与えるインパクトなどを語った。
欧州で48Vの実用化を主導する部品メーカーの一つがフランスValeo社だ。48V対応で駆動をアシストするISG(スターター兼オルタネーター)や電動スーパーチャージャーを開発済みで、後者はドイツAudi社が2016年3月に発表した「Q7」シリーズに採用された〔図1(a)〕。
同社Innovation & Scientific Development DirectorのOlivier Coppin氏は「現在主流の12Vのシステムは、2016~2020年にかけて世界的に48Vへと移行していくだろう」と説明する。48Vは、Audi社のQ7シリーズのような高級車では特定部位の高電圧化による新機能の搭載を可能にしつつ、普及車では低コストで燃費性能を高められる。同社は高級車向けと普及車向けの両方で対応部品の開発を進めており、既に20もの48VマイルドHEV関連のプロジェクトが立ち上がっているという。中でも特に多いのが、中国市場をターゲットにした普及車のプロジェクトだ〔図1(b)〕。
大気汚染問題が深刻な中国では、「中国版ZEV(Zero Emission Vehicle)」規制とも呼ばれる「NEV(New Energy Vehicle)」規制が実施されるなど、環境対応車の普及に向けた動きが強まっている。48VのマイルドHEVはトヨタ自動車などが展開するストロングHEVよりも追加コストが少なくて済み、低価格車が求められる中国市場で受け入れられる可能性が高いという。
同じくドイツContinental社も、積極的に48V化に取り組んでおり、48V対応水冷式ISGや、48Vを12Vに変換するDC-DCコンバーターなどを開発済みだ。同社日本法人シニアアプリケーションエンジニアの湯田平裕文氏は、これらの部品を組み合わせて試作した48VマイルドHEVシステムの構成やISGによる駆動アシストの効果、CO2排出量低減の効果などを示した。さらに同氏は、48VマイルドHEVシステムの今後の進化についても言及。ISGによるシステムのバリエーションは段階的に増えるという。まず既存の発電機をISGに置き換える形で導入が進み、2020年頃にはエンジンと変速機の間にモーター兼発電機を配置したベルトレスのパワートレーンなども実用化される見通しだ(図2)。