高級車に強い“ジャーマン3”が、電気自動車(EV)の開発に力を注ぐ。3社はEVを前提とした新しいプラットフォーム(PF)を、2019~20年にそろって投入する計画だ(表)。EVを短距離用のニッチな車両と位置付ける日本メーカーは、EV開発でドイツ勢に引き離されかねない。

表 ジャーマン3のEV戦略
本誌の推定を含む。3グループは足並みを揃えたように似たEV戦略を打ち出す。
表 ジャーマン3のEV戦略
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 2017年4月下旬にオーストリアで開催された内燃機関の国際シンポジウム「39th International Vienna Motor Symposium(ウィーンシンポ)」。世界のエンジン技術者が集う場で、ドイツVolkswagen(VW)グループと同BMW社、同Daimler社のジャーマン3が熱心に発表したのが電動化戦略だ。パワートレーン開発の中心が、エンジン車からEVに転換し始めたことを象徴する。

 2016年にEVに力を注ぐ戦略を発表したVWグループ。2025年までに30車種以上のEVを投入する計画だ。25年にEVの年間販売台数を最大300万台に増やし、新車販売に占めるEVの比率を現在の1%から25%まで高めることを狙う。実現すれば、世界最大のEVメーカーになるだろう。

図1 VWグループCEOのMatthias Muller氏
図1 VWグループCEOのMatthias Muller氏
EVに傾注する戦略を主導する。

 これほど一気にEV化を進められるのか懐疑的に見る向きは多い。だがVWグループには勝算がある。EVの最大の課題である電池価格が、今後大きく下がるとみることだ。ウィーンシンポに登壇した同グループCEO(最高経営責任者)のMatthias Muller氏は、「リチウムイオン電池は今後5年で手ごろな価格になる」と見通す(図1)。2020年代前半に、1kWhあたり100ユーロ(約1万2000円)を下回るとみられる(図2)。

図2 電池価格は2030年に50ユーロ/kWhか
図2 電池価格は2030年に50ユーロ/kWhか
VWグループが見通す電池価格と、実現予定のEV航続距離。同グループの資料を基に、左軸の電池価格については本誌の推定値を加えて作成した。
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 さらにMuller氏は、2030年には20年に比べて価格が1/2~2/3まで下がる予測を示す。25年以降に、次世代の電池技術として有力視される「全固体電池が実現する」(Muller氏)ことで達成できると考える。電池価格は1kWhあたり50~70ユーロ(約6000~8400円)になる見込み。2030年にVWグループの新車販売のうち、35%前後までEVが占める可能性がある(図3)。

図3 2030年に3種類のプラットフォーム
図3 2030年に3種類のプラットフォーム
VWグループのプラットフォーム(PF)ごとの比率の見通し。同社の資料を基に作成した。
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