デンソーと豊田自動織機は、氷点下10℃の低い温度で暖房を使えるヒートポンプ空調システムを開発した。トヨタ自動車が、2017年2月に発売したプラグインハイブリッド車(PHEV)「プリウスPHV」に採用。冷媒を気体と液体に分ける機構を備えた新しい技術を開発し、ヒートポンプの弱点である低温における暖房能力を高めた。

 ヒートポンプ空調システムに、新しく開発した「ガスインジェクション(気体注入)」技術を追加した(図1)。車載空調システムに気体注入技術を搭載するのは、「世界で初めて」(デンソーと豊田自動織機)である。デンソーが空調システム全体を手掛け、中核部品の電動コンプレッサーを豊田自動織機が開発した。氷点下で暖房を使うときに、PHEVのエンジンが動作する機会を減らせる。

図1 -10℃まで使えるヒートポンプ暖房の仕組み
図1 -10℃まで使えるヒートポンプ暖房の仕組み
(a)気体注入技術を追加したヒートポンプ暖房システム。気液分離器を通った後の中間ガスを、豊田自動織機が開発した電動コンプレッサーに入れるのが特徴。(b)空調システム全体の部品配置図。デンソーが開発を取りまとめた。
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 ヒートポンプは、大気の熱を冷媒に取り込むことで冷暖房のエネルギー効率を高める技術。エンジンの排熱を暖房に使いにくいか、使えない電動車両で特に採用する動きが広がっている。

 例えば日産自動車は、2012年に一部改良した電気自動車(EV)「リーフ」に採用した。従来の電気抵抗式のPTC(正温度係数)ヒーターを使う場合に比べて、消費電力を最大で約3割減らした。

 ただしヒートポンプには、外気温が低いと暖房能力が下がって使えないという課題がある。リーフでは、氷点下になるとPTCヒーターに切り替える。

 暖房能力が下がるのは、大気から受け取る熱が小さくなることに加えて、冷媒であるR134aの密度が下がるからだ。例えば-20℃のときの冷媒の密度は、0℃のときの半分程度。密度が低いと、コンプレッサーで圧縮して高温にした冷媒の流量が小さくなる。

 気体注入技術を採用すると、大気からの吸熱効率と圧縮時の冷媒の密度をともに高められる。同技術は、車室内にある放熱器を通った後の冷媒を気体(中間ガス)と液体に分けた後、中間ガスだけを直接、コンプレッサーに注入するもの。膨張弁で中間ガスの圧力を下げ過ぎないようにして密度を高めており、圧縮した後の冷媒の流量が増える。

 加えて吸熱器側に通す冷媒が液体だけになり、吸熱効率が高まる。気体の冷媒は、吸熱にほとんど寄与しないからだ。