運転者が介在せずにクルマが自動で移動する完全な自動運転車。多くの自動車メーカーがそうした自動運転車に開発の目標を据える中、マツダが目標として選択したのは運転者のバックアップとして機能する自動運転車だ。運転の主役は、あくまでも運転者。自動運転技術が前面に出てくるのは、運転者が正しく運転できなくなった場合だけである。運転者を常に陰で見守り、いざというときに車両側が運転を引き継いで安全な場所までクルマを移動させる。

 「世の中の状況として、完全自動運転車が開発のゴールであるとの固定観念が出来つつある。だが、(自動運転技術の開発の方向性としては)他にも道があるはずだ」。こう語るのは、マツダの自動運転技術を引っ張る執行役員車両開発本部長の松本浩幸氏である(図1)。

図1 マツダ執行役員車両開発本部長の松本浩幸氏
図1 マツダ執行役員車両開発本部長の松本浩幸氏
同社が目指す自動運転技術は、運転者による運転を基本とし、運転者が運転できない状態に陥ったときに運転者に代わって安全な場所までクルマを移動させる人中心のものだという。
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 ここでいう完全自動運転車とは米自動車技術会(SAE)の定義で言えば、レベル4やレベル5に当たる自動運転車だ。レベル4、5では、レベル3までと違って運転の主導権を車両側が握り、運転者を介在させずにクルマを移動させられる。運転者の不在が法律で認められるようになれば、クルマを運転できない人であってもクルマを使える。

 その社会的なインパクトは非常に大きい。タクシー会社やバス会社、運送業者などでは、無人や運転技術を持たない人でも車両を運行できるようになる可能性もあり、人件費の削減につながる。高齢化が進む過疎地域などでは、自動で巡回バスを走らせるなどで地域の足の維持に役立つ可能性もある。インパクトが大きい分だけ、それを目標に掲げる企業も注目するメディアも多い。それもあり、松本氏が指摘するように、自動運転技術の目標があたかも「人が運転しないクルマ(ルート1)」だけかのように捉えられるきらいがあった。