豊橋技術科学大学は、走行中の電気自動車(EV)に無線で電力を伝送する(走行中給電)システムの屋外走行実験に成功した(図1)。電力を伝送する金属板を埋め込んだ「電化道路」から1人乗りのEVに給電する。2016年3月に実験を報道陣に公開し、10km/h程度のスピードで走行する様子を見せた。

図1 走行中のEVへのワイヤレス給電に成功
図1 走行中のEVへのワイヤレス給電に成功
ベース車両にトヨタ車体のEV「コムス」を使い、10km/h程度のスピードで走行した。前輪の2個のタイヤを介して、道路から電力を伝送する。道路の全長は30m。幅40cmのステンレス板を2枚、その上をタイヤが通過するように配置した。
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 重くて高コスト、それなのに航続距離が短い。EVが抱えるこうした課題を、今回公開した走行中給電システムは解決する可能性を秘めている。走行中に電力供給することで、EVに搭載する電池の容量を抑えて車両コストを低減しながら航続距離を延ばせる。まずは、走行中給電技術と相性の良い、高速道路や限られたコースを走るバスやタクシーなどでの実用化を目指すことになりそうだ。

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は既に、走行中給電のロードマップを示している。2020年までにタクシー乗り場での実用化、2020年ごろに高速道路での一部区間での実験、2030年までに高速道路の登坂車線の一部区間での実用化を目指すという内容である。

 海外では2015年8月、英国政府が、自動車専用道路で走行中給電システムの専用レーン「Electric Highways」の実証実験を開始することを発表した。

 開発で先行するのが、韓国の政府系研究機関であるKAIST(Korea Advanced Institute of Science and Technology、韓国科学技術院)である。KAISTは、2009年2月に敷地内で走行中給電システムを備えたゴルフカートの実車走行に成功。その後、所内やソウル大公園内などで同システムを備えた大型バスの走行試験を進めている。

 今回、豊橋技科大が披露した走行中給電システムで特徴的なのは、実験に用いた1人乗りのEVに動力源となる電池を搭載していない点だ。KAISTの試作車両にはリチウムイオン電池が備えられている。豊橋技科大教授で開発を主導する大平孝氏(同大未来ビークルリサーチセンター長)によると、「電池を搭載しないEVの有人走行は世界で初めて」という。

 なお、屋外での実証実験は、総務省の高周波利用設備(13.56MHz、出力5kW)の認可を得て運用している。