今後ますます厳しくなる排ガス規制。これらに対応していくためには、エンジンから出される規制物質を減らさなければならない。そのためにマツダが目指しているのが、燃料と空気をよく混ぜること。ディーゼル車ではリーン(希薄)化・均質化、ガソリン車でリーンHCCI(予混合圧縮着火)化を目標に据える。

 2015年末、国土交通省と環境省が、日本で販売中の主なディーゼル乗用車を対象に排ガスの路上試験を実施した。そこでNOx (窒素酸化物)の排出量が低く高い評価を受けたのがマツダのディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」だ。

 同エンジンではNOxの後処理装置は使わない。代わりに、外部EGR(排ガス再循環)と低圧縮比化などでNOx排出量を抑制している(別掲記事参照)。NOxは、筒内の温度が低いほど、燃料と空気が均一に混ざるほど発生しにくい。外部EGRを入れると、混合気に加えてEGRガスも加熱しなければならず、熱容量が増える分だけ筒内温度が下がる。また、圧縮比が低いと、圧縮による筒内の温度上昇が緩やかになり、筒内に燃料を噴いてから着火するまでの時間を延ばせ、燃料と空気がより均一に混じり合う。

 もっとも、マツダによれば、このSKYACTIV-Dをもってしても、NOx後処理装置なしでは、2017年9月からの順次導入が予定されている欧州のRDE(Real Driving Emission)試験への対応は難しい。そこで期待が掛かるのが、研究開発中の第2ステップのSKYACTIVエンジンだ(図1)。同社パワートレイン開発本部パワートレイン技術開発部長の寺澤保幸氏によれば、「色々なアイデアがあると思うが、やりたいことは燃料と空気をよく混ぜること」(均質化)とする。

図1 マツダが掲げる究極の内燃機関に向けたロードマップ
図1 マツダが掲げる究極の内燃機関に向けたロードマップ
現行の第1ステップから第2ステップへ向けて研究開発を進めている。熱効率の向上に関わる制御可能な因子は七つ。それらを理想の状態に近づけることで究極の内燃機関に近づけていく。比熱比は燃料の濃さ(リーンかリッチか)、燃焼期間は点火・着火後どのくらいの期間(クランク角で表す)で燃焼を終わらせるか、吸排気行程圧力差はポンピングロスをそれぞれ意味する。HCCIは予混合圧縮着火のこと。マツダの資料を基に本誌が作成。
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 同氏によれば、NOxやPM(粒子状物質)、HC(炭化水素)、CO(一酸化炭素)といった有害物質は、筒内を適切な温度、圧力、空燃比にすると発生しにくくなる。すなわち、噴射した燃料が空気とよく混ざり合い所望の空燃比になってから、筒内を狙った温度・圧力に上昇させて燃やせばよい。実際、燃料噴射のタイミングを適度に前に寄せることで、PMは少し出るがNOxが出ない燃焼を実現することは可能で、現行のSKYACTIV-Dでも軽負荷領域ではそうした燃焼を利用しているという。同氏によれば、現状では、どのタイミングでどのぐらいの燃料を噴射すればいいかも計算できるようになっている。

 課題は「(この種の燃焼では、通常の拡散燃焼よりも)爆発的に燃えるので音のコントロールが難しくなること」(同氏)。そのため、より音が大きくなる高負荷側では現状、こうした燃焼の適用は難しい。この点に対し同氏は「一気に燃やすからうるさくなる。インジェクターの進歩などで、燃焼室のさまざまな場所で時間差を持って混合気を作れるようになれば、(適用を)もっと高負荷側に拡大できると思う」と打ち明ける。