「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者や社員が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み
部下の評価の仕方に関して質問があります。私は開発部門で管理者を務めています。製品を開発していると、当然のことながら売れる製品とそうではない製品が出てきます。売れた製品の開発に携わった部下を評価しないと、その製品を担当した部下から不満が出ます。一方で、開発部門の仕事の難易度や作業量は必ずしも売れ行きとは直接関係しません。どのように評価すべきでしょうか。

編集部:企業にとって、社員の評価は永遠の課題です。管理者になって最も頭を悩ませる仕事の1つに部下の評価を挙げる人は多いのではないでしょうか。製造業では確かにたくさん売れてヒット商品になるものもあれば、残念ながら不発に終わる商品もあります。すっきりしないかもしれませんが、やはり、売れた製品に携わった部下により高い評価を与えることが“公平”なのではないでしょうか。トヨタ自動車では部下の評価をどのようにしているのですか。

肌附氏—トヨタ自動車では、技術者や生産関係に携わる社員に対して、製品であるクルマが「売れるか売れないか」だけで全ての評価を行っていません。もちろん、クルマの販売を主な仕事とする販売店の場合は別ですが。

 この方針は、部下はもちろん、チームや部署単位でも変わることはありません。売れないからといって、それだけでチームや社員が低く評価されたり、冷遇されたりするということは必ずしもありません。

編集部:それはなぜですか。

肌附氏—「クルマが売れるか売れないかの要因は、それを担当した個々のチームや社員だけにあるわけではない」と考えているからです。トヨタ自動車では新車の外観デザインや全ての項目を、役員を含めた多くの人による審査を通して決めています。市場投入前の試作車を囲んで審査し、問題点や改良点があれば指摘して修正を指示します。

 つまり、売れるか売れないかについては役員を含めてみんなが責任を負っている。従って、「みんなで審査したのだから、クルマが売れなかったからといって担当者を責めてはいけない。逆に、売れても担当者1人だけの貢献ではない」という共通認識を、トヨタ自動車ではトップから社員まで持っているのです。

 もちろん、次のクルマづくりに生かすために売れなかったことに関する分析はきちんと行います。「結果として売れなかったら仕方がない。次に良いクルマを造ろう」という具合に気持ちを切り替える社員が多いと思います。

編集部:売り上げに対する貢献を直接評価しないというのであれば、貢献者から不満の声が上がりませんか。