「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者や社員が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み
50人ほどの社員が配属された部で部長を務めています。最近困っているのは、若手社員が辞めてしまうことです。入社4年目までに3割程度の部下が職場を去ってしまいました。理由を聞くと、仕事がきついからではなく、もっと他にやりたいことを探したいという声が目立ちます。愛社精神というと時代遅れかもしれませんが、職場に愛着を持たせる方法はありませんか。

編集部:最近、「若手社員が辞めてしまって困る」という愚痴を管理者クラスの人からよく聞くようになりました。月並みかもしれませんが、仕事や職場を好きになってもらうことで、若手社員を少しでも引き留めたいと思う管理者は少なくないと思います。トヨタ自動車ではどうでしょうか。

肌附氏-昔と比べると、転職によって新たな会社や世界に挑戦する人は増えていますが、それでも、他社と比べるとトヨタ自動車は社員の愛社精神や会社への愛着、忠誠心といったものが高い企業だと思います。それを端的に示すのが、「当社では、自分の子供をトヨタ自動車に入社させたいと考えている社員が多い」という社内のアンケート結果です。ある記者会見でトヨタ自動車社長の豊田章男さんもこのことを紹介したことがあります。自分の子供を入社させたいと思うほどですから、愛社精神の高い社員は多いのでしょう。

編集部:日本を代表する企業の1つですから就職先として人気があるのは分かります。それでも、身内を自分と同じ会社で働かせたいというのは、よほどのことだと感じます。何か秘密があるのでしょうか。「愛社精神を大切にしましょう」といった社内教育か何かがあるとか…。

肌附氏-単に「愛社精神を育みましょう」と言うだけで、社員が会社に愛着を覚えてくれるのであれば、管理者も経営者も苦労はしません。それどころか、今の若手社員に「愛社精神を持て」などと諭しても、聞く耳を持つどころか、古くさい価値観を押し付けられたなどと反発する人の方が多いかもしれません。

 実際、愛社精神を刷り込むような特定の社内教育がトヨタ自動車にあるわけではありません。その代わりに、トヨタ自動車には管理者や経営者が大切にしていることがあります。それは、部下や社員が安心して上司や経営者に付いていけるように心を砕くことです。会社に忠誠心を示しなさいなどと部下に命じるのではなく、まずは上司から部下に対して気遣う行動に努めるのです。上司のそうした言動が、部下が仕事や職場に愛着を持つ「礎」となります。

編集部:具体的にはどのように言ったり行動したりするのでしょうか。