「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者や社員が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み
設計部門で働いています。入社して7年が経ち、成功も失敗も経験して仕事にかなり自信がついてきました。そのため、より難しい仕事に挑戦したいと考えています。ところが、上司から命じられるのはコンポーネントレベルの設計ばかりで、より上位のシステムの設計を任せてはもらえません。上司からの信頼をもっと得たいと考えています。何かアドバイスはありませんか。

編集部:中堅社員クラスともなると、仕事の手順をすっかり覚え、スムーズに業務をこなしていることでしょう。若手社員を指導したり、プロジェクトのリーダーとして活躍したりしている人も少なくないと思います。でも、自信に満ちあふれて「自分はもっとできる」と考える一方で、自分が期待する高い信頼を上司から得られていないのではないかと、不安や不満を覚えている人もいるのではないでしょうか。「なぜ、上司は分かってくれないんだ?」と、心の中で叫んでいるかもしれません。

肌附氏—最近の若い社員は安定志向で無理をしない人が多いという話を聞きます。そうした中、より大きな仕事に挑戦したいというのですから、頼もしいではありませんか。それは置いておくとしても、上司が自分を信頼してくれないという悩みは、企業で働く社員にとって普遍的なものです。この悩みは昔からよく聞きますし、私自身もトヨタ自動車の若手社員だった頃に同じように悩んだことがあります。

 実は、その時の経験から私はあることを学びました。それは、「上司が自分を信頼してくれないと文句を言っているうちは、上司からの信頼はなかなか得られない」ということです。これは私だけではなく、私が知る社員のほぼ全員に当てはまる“法則”です。

編集部:自信過剰な割に、実力が伴っていないことが多いということでしょうか。

肌附氏—厳しい言い方をすればそうなるでしょう。一般に、人間は自分に対する評価には甘くなるものです。これと比べると、上司の評価はより客観的であると考えられます。第三者の目で評価することになるからです。つまり、こうした不満を持つ部下の多くは、実際には、上司から見ると「より難易度の高い仕事を任せる実力がまだ伴っていない部下である」というケースが多いのだろうと推測できます。

 仕事柄、私はよく日本企業の若手社員から「上司が信頼してくれない」という不平や不満を耳にします。「うちの上司は分かってくれないんですよ」「なかなか自分に仕事を任せてくれない」といった具合に。もしかすると、彼らは「ああ、あなたの言うことは分かりますよ」という同意とも共感とも取れる言葉を私から掛けられることを期待しているのかもしれません。

 しかし、私が返す言葉はこうです。「上司が信頼してくれないとあなたは言いますが、あなた自身は上司に信頼してもらえるような行動を取っていますか」。私がこう言うと、みんな「えっ?」と驚いた表情になります。