「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者や社員が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み
中堅メーカーで開発部門を束ねています。従来にない新しい価値を提供する画期的な製品を造れと、経営陣からハッパを掛けられています。人工知能とIoT(Internet of Things)の急速な進化で社会やライフスタイルが変わる可能性があるのだから、その変化を見据えて新製品を開発せよ、というわけです。新たな価値を持つ製品を生み出す会社になるために何かヒントはありませんか。

編集部:21世紀の環境規制の強化に先手を打ち、トヨタ自動車はハイブリッド車を1997年に実用化しました。パワートレーンの電動化の流れを捉え、足下ではプラグインハイブリッド車の開発に特に力を入れています。さらに、近い将来を見据えて自動運転やコネクテッドカーの技術開発にも精力的に取り組んでいます。変化が激しい時代に、トヨタ自動車が新たな価値を持つ製品を生み出し続けることができる理由は何でしょうか。

肌附氏—技術は進化し続けます。それに伴い、製品に求められる機能や性能は変化します。しかし、トヨタ自動車がものづくりを行う上で、絶対に変えないものがあります。それは、「常にお客様を見ること」。そして、「決して諦めないこと」です。ものづくりにおいて、こうした信念を持った人づくりを進めていることが、新たな価値を持つ製品を創ることにつながっているのだと思います。

 もちろん、トヨタ自動車が開発する全ての製品が必ず新たな価値を実現しているとは言い切れません。残念ながら、平凡な製品もあるでしょう。しかし、それでも開発する際には必ずお客様の満足度を高めることを狙って、機能や性能、品質、コストなどの開発目標を設定します。そして、その目標がどれほど高く難しくても、粘りに粘って最後には達成にこぎ着ける。

 お客様を見ていれば、それが新たな価値になる確率が高まります。諦めなければ、その価値を具現化する確率が高まります。こうしたものづくりの姿勢を貫いているため、結果として新たな価値を持つ製品が生まれているのだと思います。