「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者や社員が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み
産業機器メーカーの管理者です。開発力を高めつつ、経営にも貢献することを求められています。最近の好業績の企業を見ると、“カリスマ”性のある創業者が力強く会社を引っ張っていく例が多いようです。実は当社もそう。多くの社員は社長がいなくなったら経営がどうなるかをとても心配しています。トヨタ自動車は創業者がいなくなる危機をどのように乗り越えたのでしょうか。

編集部:優れた創業者が経営手腕を発揮し、一代で企業を大きくする。しかし、その創業者がいなくなった途端に業績が悪化する企業は少なくないという印象があります。これは創業者の経営理念を伝承できなかったからではないでしょうか。トヨタ自動車の強さは、トヨタ自動車の創業者である豊田喜一郎氏のDNAが元になっている。そのDNAを吸収した「人(社員)」こそが、トヨタ自動車の強さの源泉だ──。そう、前回(2017年5月号)伺いました。では、トヨタ自動車は、なぜ創業者のDNAを伝承することができたのでしょうか。

肌附氏— 確かに、豊田喜一郎さんは1952年に57歳と比較的早く亡くなっています。戦後、トヨタ自動車が倒産の危機に直面し、経営悪化の責任をとった喜一郎さんは社長を退任。会社が立ち直り、再び社長に就任することが決まった直後に他界してしまったのです。

 しかし、喜一郎さんのDNAがトヨタ自動車の中から消え去ることはありませんでした。その証拠に、現在OBである私も含めてほとんどの社員は喜一郎さんに直接お目にかかったことはありませんが、喜一郎さんのDNAを吸収しました。それは、歴代の経営者や管理者から仕事を通じて指導を受けたからです。

 中でも、特別に大きな存在は、やはり、豊田英二さんでしょう。英二さんこそ、喜一郎さんのDNAをそのまま引き継いだ人だからです。