「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者や社員が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み
設計開発部門の部長です。最近気になっているのは、「理想の上司像」です。競争力を高めるために、当社では社員に対する管理を厳しくする一方です。でも、管理を厳格にするだけでは、成果や生産性の向上に結びつくとは思えません。むしろ、部下にとって理想と思える上司の下で働く方が、良い成果を生むのではないかと思っています。この考えをどう思いますか。

編集部:「コンプライアンス(法令順守)」という言葉が日本企業にすっかり定着した感があります。各種法令にセキュリティー対策、個人情報の保護、メンタルヘルス対策、そして、最近とみに注目されている長時間労働規制…。時代や社会の変化とともに、企業が順守しなければならないものが増えています。すると、管理者としては、決められたことを部下がきちんと守っているかどうかを管理する業務が発生します。

 これらは法令なので、多少厳しく管理してでも順守しなければならないのは当然です。でも、本業のものづくりでも、最近は管理強化が叫ばれている企業が増えているのではないでしょうか。品質管理とコスト管理、納期管理を厳しくし、競争力を高めようという発想です。しかし、それが成果につながっているか否かは果たして疑問が残るというのは私も同感です。トヨタ自動車ではどうでしょうか。

肌附氏— 法令や安全に関する規則や規律に関しては、トヨタ自動車の管理者はわずかの妥協も許さずに徹底して厳しく管理します。「良き企業市民」を目指し、従業員の安全・安心を守るためだからです。ただ、このことはトヨタ自動車に限らず、現在はどこの日本企業の管理者もそうでしょう。

 これに対し、トヨタ自動車の特徴の1つは、役職が上に行くほど「あの人について行きたい」「あの人のためなら頑張って働こう」と部下が思えるような人を多く上司に選んでいることだと思います。部下が安心してついていけるような上司、言い換えるならば「部下に慕われる上司」を理想とする姿勢です。

 クルマづくりは社員の全員参加によるチームワークが物を言います。チームワークを最大限に発揮させるには、部下に慕われるリーダー(管理者)の方が望ましい。その方が部下がのびのびと粘り強く課題に取り組み、高い壁を乗り越えていくから─。長年の経験からこのことを学んだトヨタ自動車は、いつしか人事評価にもこうした要素を組み込んでいったのだと思います。

編集部:確かに、部下から慕われる上司の下なら、やる気が高まる気がします。チームの結束力も強まることでしょう。ただ、素晴らしい上司であるというイメージは湧くものの、では具体的にどのような人が当てはまるのかと聞かれても分かりません。慕われる上司の条件を教えてください。