エンジン燃焼後の排ガスを再利用する手段に期待が集まっている。EGR(Exhaust Gas Recirculation、排ガス再循環)は、排ガスの一部を取り出して再度吸気させる技術だ。排ガス規制への対応や燃費改善などに欠かせない存在になりつつある。

 エンジンは空気と燃料を吸気バルブを用いて燃焼室内に吸い込み、燃焼させて駆動力を得た後に排気バルブから排ガスを放出する。一度燃焼させた排ガスは、窒素酸化物(NOX)や炭化水素(HC)などの有害物質を含んでいるだけでなく、圧力や熱といったエネルギーを持っている。

 このうち、排ガスの圧力を利用してポンプを回し、エンジンに強制的に空気(新気)を送り込む過給器が、本連載の第2回(2014年9月号)で解説した「ターボチャージャー」だ。これに対し、排ガスそのものを再び燃焼室に取り込んで再利用するのがEGRである。

 EGRシステムでは、燃焼済みの不活性ガス(厳密に言えば排ガス中には酸素や一酸化炭素などが含まれる)を空気の代わりに燃焼室に投入する。すると、混合気(燃料と空気)の酸素濃度が低くなって燃焼温度が下がる。燃料の噴射量を抑えても燃焼温度が上昇しにくいことから、エンジンを故障から守りつつ燃費を改善できる。

 EGRを最初に使い始めた目的は、ガソリンエンジンの排ガス対策であった(図1)。エンジンの燃焼効率を高めていくと、燃費や出力は向上するが排ガス中のNOXが増加してしまう。そのため、あえて効率を落とすためにEGRを利用することが考え出されたのである。NOXは、燃焼温度が高いほど発生しやすい。EGRによって排ガスを取り込むことで燃焼温度を下げ、排ガス中のNOXを抑える。

図1 EGRの燃費改善効果
図1 EGRの燃費改善効果
EGRの導入によって得られる効果を示した。熱損失低減やノッキングリミット向上、ポンピングロス低減などによってトルクが向上し、結果として燃費が改善する。実際には高回転高負荷になるほどポンピングロスは減少していくという見方もあり、メーカーによって若干比率や効果の判断は異なると思われる。
[画像のクリックで拡大表示]

 同様の利用法はディーゼルエンジンでも導入されている。ディーゼルエンジンの場合、ガソリンエンジンよりも圧縮比が高いため、燃焼効率を高めて燃焼温度を上げていくと排ガス中のNOXが増えてしまう。一方、燃焼温度を落とすために燃料を多く噴射させると、燃費が悪化するだけでなく、排ガス中の粒子状物質(PM)が増えてしまう問題も生じる。このNOXとPMのトレードオフの関係を改善する手段としてEGRが使われている。

 スロットルボディーのないディーゼルエンジンは新気の吸入量を制御できないため、EGRを利用して新気を減らすことで燃焼温度を抑えている。ガソリンエンジンではスロットルバルブによる吸気抵抗、すなわちポンピングロスを低減するため、軽負荷時にはEGRを積極的に導入してバルブ開度を広げることにも役立つ。