世界的に高級車のカテゴリーでアルミニウム(Al)合金材の使用が進む中、米GM社が2015年4月のニューヨークショーで発表した大型セダン「キャデラックCT6」は、オールAl合金製の外板とモノコックを採用したことで注目を集めた(図1、2)。今回、CT6を調査目的で分解した神戸製鋼所(以下、神戸製鋼)神戸総合技術研究所で、CT6のAl合金によるボディー構造の設計・生産技術について取材した。

図1 米GM社の大型セダン「キャデラックCT6」のホワイトボディー
図1 米GM社の大型セダン「キャデラックCT6」のホワイトボディー
神戸製鋼所が同社の神戸総合技術研究所(兵庫県神戸市)実験棟に展示した。
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図2 CT6の車両
図2 CT6の車両
北米から輸入した2.0L直4ターボモデルを分解した。日本市場では3.6LのV6仕様のみの設定だ。北米市場では2017年モデルからプラグイン・ハイブリッド・モデルを設定する予定。
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CT6と他社のAl合金使用の違い

 神戸総合技術研究所の自動車ソリューションセンターは毎年、車両を分解している。今回は、2016年に北米市場から輸入した2.0L直4ターボ仕様の「キャデラックCT6 2.0T」を分解調査した(表1、図3)。

表1 CT6の仕様(北米モデル)
表1 CT6の仕様(北米モデル)
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図3 3分割したホワイトボディー
図3 3分割したホワイトボディー
CT6のボディー骨格における鋼板とAl合金の使用比率は38:62とされ、ボディーパネルやドア、前後フードなど、見えるところはすべてAl合金を使用した。Al合金を多用したことで鋼板を使ったCTSと比べて99kg軽量化したという。
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 GM社が開発、CT6に採用された後輪駆動/四輪駆動を基本とする「オメガ・アーキテクチャー」は、高張力Al合金や超高張力鋼板など、13種類の素材を用いた。CT6は鋼板をAl合金材に置き換えたことで「CTS」に比べて車両質量全体で約99kg軽量化した他、クラストップレベルのねじり剛性を実現した。

 CT6のボディー表面積における鋼板とAl合金材の使用比率は38:62で、ボディーパネルや前後ドアパネル、エンジンフード、トランクリッドなどの外板部品はすべてAl合金を使用した。

 ボディー骨格の材料構成を見ると、室内空間を含む骨格にはAl合金材とともに、超高張力鋼板やホットスタンプ材や高張力鋼板を使用したことが分かる(図4)。

図4 ボディー骨格の材料構成
図4 ボディー骨格の材料構成
(a)乗員空間の骨格には超高張力鋼板や高張力鋼板、ホットスタンプ材を使用した。NVH対策としてフロアーパネルには主に鋼板を使った。大型のAl合金ダイカスト材の採用とともに、ボディー骨格に7000系押し出し材を採用している。(b)ボディーでのAl合金部品採用部位。
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 競合車と比較した特徴は、室内空間周りではホットスタンプ材と超高張力鋼板の使用。そして前部サイドメンバーはAl合金押し出し材、サスペンション取り付け部はAl合金ダイカスト材をすべて採用したことが挙げられる。

 興味深いのは、フロアーパネルでの鋼板とAl合金板材の使用法である。CT6ではボディー骨格をAl合金で構成するにもかかわらず、フロアーパネルは鋼板製だ。「Jaguar XF」と「Audi Q7」では前部をAl合金板材、後部で鋼板を与えており、「BMW 7シリーズ」では超高張力鋼板で構成するとともにフロアーパネルも高張力鋼板を使っている。

 これらの違いは、生産設備やNVH(騒音・振動・ハーシュネス)、ボディー剛性などに対する各メーカーのコンセプトの相違がもたらしていると考えられる。

 Al合金製のボディー骨格に大型のダイカスト部品とともに、Al合金押し出し材を採用していることは、同じGM社のスポーツカーである「Chevrolet Corvette」と共通する。

 ちなみに「Jaguar XF」ではボディー全体の75%にAl合金を採用したモノコックボディーを採用しているが、フルAl合金モノコックの同社の「XJ」の方がサイズ的にはCT6に近い。