ポスト・スマートフォン(スマホ)は何か─。2010年ごろから急拡大を続けてきたスマホ市場の成長の陰りが見えたここ1~2年、電子産業の新たなテクノロジードライバを待望する声は日増しに高まっていました。その有力候補がようやく見えてきました。カギは、現実世界の情報に、コンピューターによる情報を付与する概念「AR(augmented reality:拡張現実感)」にあります。

 ここにきて、ARの実現に向けた各種技術が急進展し始めました。これらの技術を取り入れた次世代のAR HMD(Head-Mounted Display)やメガネ型端末「ARグラス」が相次いで登場しつつあるのです。米Microsoft社の「HoloLens」を筆頭に、その百花繚乱ぶりは、スマホの勃興期を彷彿させます。

 2016年夏、AR技術を用いたスマホ向けゲーム「ポケモンGO」が世界的なブームを巻き起こしました。ただし、AR HMD/ARグラスの持つ潜在能力は、ポケモンGOの比ではありません。スマホやテレビ、一部のパソコンの機能を1台で実現できるからです。用途は、製品開発や設計、工場での作業支援、教育やスポーツのトレーニング支援、さらにはARを用いた新スポーツ、一般消費者の娯楽まで多岐に渡ります。計り知れない可能性を持つAR HMDやARグラスにはさまざまなメーカーが巨額の開発費を投入し始めています。この1年間に世界中で1兆円弱がAR HMD/ARグラスの開発に投じられています。特にARグラスについては、順調に開発が進めば、今後10年以内にも端末の主役の座をスマホから奪い取りそうな勢いです。今号の特集「主役交代 スマホからARグラスへ」は、ARをめぐる世界の主要企業の動向、最新技術動向から将来展望まで、野澤記者がまとめました。

 もう1つ、今号でお読みいただきたいのが、特集「“基板レス”で機器設計を変革」です。プリント基板を使わず、筐体や構造部品に配線機能を持たせることで部品同士をつなぐ、「基板レス」の実現に向けた手法が続々と提案されています。基板レス技術の活用により、機器の薄型・小型・軽量化が可能になる他、部品配置をはじめとする機器設計の自由度が格段に上がります。現在の技術開発動向とともに今後の課題を宇野記者が探ります。

 加えて、日経エレクトロニクスのお家芸でもある分解記事も今号は盛り沢山でお届けします。「iPhone 7」、VR HMDの新製品「PlayStation VR」、新型「PlayStation 4」と“大物”を揃えました。