東芝は、ロボットの動作などの学習を,動作の反復や試行錯誤といった人間に似たプロセスで進めることを目指した人工知能技術「SolidMind」を開発した。昨今注目を集めるディープニューラルネットワーク(DNN)と異なり、使いながら学習し、しかも学習量が少なくてもある程度正しく動作するという。特に、失敗した動作を効率的に避けながら学習する特徴を備えるとする。

 開発したのは、東芝 半導体研究開発センター リソグラフィプロセス技術開発部 リソグラフィープロセス技術開発第一担当 主務の野村博氏と同 松岡康男氏の二人である。野村氏らは、2つの新しいアイデアをニューラルネットワーク技術に導入することでSolidMindの回路構成を開発した。

 アイデアの1つは、脳神経細胞(ニューロン)のモデル、特に学習モデルをDNNなどとは大きく変えた点である。東芝の野村氏らが採用したニューロンの動作モデルは、1943年に提唱された「形式ニューロン」に基づく(図1)。ニューロン間をつなぐスイッチといえる「シナプス」の結合度の強さをWi、ニューロンが発火するしきい値をθとして、それらの値の組み合わせを変えることで、ニューロンが論理ゲートとして機能することを初めて示したモデルである(図1(a))。一般に、θの値が比較的大きい場合は、いくつかのシナプスから同時に信号が入力された場合にだけ発火する「ANDゲート」として動作する。一方、θの値を小さくすると、単一のシナプスからの信号入力でも発火する「ORゲート」や「NOTゲート」になる。

図1 ニューロンのモデルを原点に帰って見直し
図1 ニューロンのモデルを原点に帰って見直し
1943年に提唱されたニューロンの最も簡素なモデル「形式ニューロン」の概要(a)と、形式ニューロンのしきい値θに注目した東芝独自のモデル(b)の概要を示した。DNNなどはシナプスの結合度(Wi)を変更することで学習機能を実現するが、形式ニューロンでは、Wiより、θの値を変えることでニューロンの役割が変わることに重点があった。東芝のモデルでは、θをいくつかのパラメーターに分け、それらの値を変化させることで学習機能とニューロンの役割変更を実現する。(b)は東芝が考えるニューロンのモデルをタンクにたまった水に模して説明したモデル。(図:東芝の資料を基に弊誌が作成)
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