NTTは、光ファイバー通信の長距離伝送時に発生する波形ひずみによる信号劣化を補償する「相補スペクトル反転位相共役光変換」という新技術を開発した注1)。ひずみ補償に関するデジタル信号処理量を10分の1以下にできる可能性があり、大容量・長距離のバックボーンネットワークを低コストかつ低消費電力で構築するのに有望な技術という。2015年9月27日~10月1日に欧州で開催された光通信関連の国際学会「41st European Conference and Exhibition on Optical Communication(ECOC2015)」で発表した。

注1)今回の研究開発の一部は、情報通信研究機構(NICT)の委託研究「光周波数・位相制御光中継伝送技術の研究開発」の成果を用いている。

符号反転で時間を“巻き戻す”

 現在のバックボーンネットワークに使用されている光ファイバー通信では、伝送後の光信号の波形ひずみをデジタルコヒーレント技術を用いて除去(補償)している。受信側に設置した光源と受信した光信号とを干渉させる「コヒーレント受信」とDSPによるデジタル信号処理で補正する技術だ。1波長あたり100Gビット/秒の伝送容量を100波長程度用いて伝送する通信システムが既に実用化されており、1波長あたり400Gビット/秒の光送受信器の開発も進められている。

 光ファイバー通信の長距離伝送において、伝送速度のさらなる高速化や波長数の多重化によって大容量化を進めると高い信号対雑音比(S/N)が必要となる。そのためには入力光のパワーを上げなければならないが、光のパワーを上げると信号波形の非線形ひずみが大きくなる。このひずみをデジタルコヒーレント技術で補償する場合、補償性能を向上しようとするとDSPの回路規模が増大する。今後の伝送速度の高速化や波長数の多重化に向けて、デジタルコヒーレント技術による信号処理の負荷を低減する技術が求められていた。