ソフトバンクグループのPSソリューションズは、IoT(Internet of Things)技術を活用して農家の圃場(農場)ごとに最適な栽培手法や知見を提供するシステムを2015年10月に発売した(図1~2、関連記事)。JA(農業協同組合)や自治体で農業の支援サービスを提供している窓口などに同年12月下旬から出荷する。圃場にセンサーなどを設置、それぞれの圃場や環境に最適な栽培手法を農家が窓口の担当者(営農指導員や改良普及員など)と連携しながら実践できるよう支援していく。

図1 経験に頼らない農業をIoTで実現する「e-kakashi(いいかかし)」
図1 経験に頼らない農業をIoTで実現する「e-kakashi(いいかかし)」
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図2 収集したデータを分析し活用可能に
図2 収集したデータを分析し活用可能に
システムの構成。センサーノードは、温湿度センサーや日射センサー、多点温度センサー(サーミスタ)、土壌水分センサーを接続する標準ポートに加えて、シリアルおよびアナログの拡張ポートを備える。GPSを搭載、位置情報とセットでデータを計測・収集できる。ゲートウエイとの通信には920MHz帯の電波を使う。通信距離は見通し最大1km。電源は内蔵のリチウム電池。10分周期で計測する場合に3年程度は稼働するという。ゲートウエイは、複数の子機からデータを集約できる。クラウドサーバーとの通信には3G/LTE回線を用いる。(図:PSソリューションズ)
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 システムは、温湿度や土壌水分などを測るセンサー端末(センサーノード)とセンサー情報を集約するゲートウエイ、ゲートウエイと接続したサーバーなどで構成する(図2)。センサーノードとゲートウエイは各農家が設置・運用、サーバーはPSソリューションズが管理して農家やJAの窓口などが情報を閲覧する。

 サーバーから提供される情報は、栽培品種や地域、各圃場における気候や栽培の履歴、その時々の育成状態などに応じた内容になる(図3)。例えば、農家が次に実施すべき作業やその実施時期の目安である。営農指導員などは、こうした情報をパソコンやスマートフォンから確認することで、担当地域の農家を訪問しなくても、JAなどにいながらにしてアドバイスできる。

図3 利用可能なサービスの例
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図3 利用可能なサービスの例
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図3 利用可能なサービスの例
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図3 利用可能なサービスの例
サーバーから提供されるサービス(Webアプリケーション)では、リアルタイムの計測データを閲覧したり(左)、「ダッシュボード」として多様な計測データを一覧表示したり(中央)できる。右の「eKレシピ」では、作物の栽培に最適な条件をユーザー自身が作り込める。農作物には品種ごとの理想的な栽培条件が存在するが、実際の現場では気候や土壌の影響などもあり、理想的な栽培条件との差異が発生する。その差異を詳細に分析したり、既存のノウハウと照合したりすることで、各地域に適した栽培条件を確立する。それによって、経験の少ない就農者でも高品質な作物を作れる可能性が高まるという。(図:PSソリューションズ)

 小売店などを持つ流通企業と契約している圃場でも、企業側の指導員が契約農家に対して同様のアドバイス提供や管理が可能になる。農業のノウハウをデータベース化して後継者に伝える役割を担わせることもできる。